日経MJ 2018年8月12日掲載

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神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2018年8月12日掲載

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ネットで発信、斜陽産業こそ――成長へ挑戦する価値あり

 あるシャッター街の和菓子店の経営者から相談があった。商店街では元気な店と評判だが、原材料費の高騰もあり利益率が下がっている。「この業界には未来がないのでは?」との不安を抱えているという。本当に活路はないのか?
 シャッター街から、ネットの世界に目を転じると、全く違う未来が見えてくる。あなたは和菓子と洋菓子、どちらがネットで多く検索されていると思うか?
 洋菓子と答える人が多いだろうが実は和菓子。洋菓子というキーワードのグーグル検索数は月2万7100件に対し、和菓子は月7万4千件と、2・7倍だ。
 さらに、検索トレンドを追うと、2004年以降は洋菓子、和菓子ともに緩やかな右肩上がり。実際に検索してみると、興味深いデータも出てくる。
 洋菓子は2億2200万件のURLがヒットするが、和菓子は3750万件。つまり和菓子はネット検索している人が多いのに、ネット上で情報提供している件数が乏しいのである。
 この事実から、和菓子はネットでの情報発信に力を入れれば成長余地は大きいのではないか。今さらネット発信に力を入れて意味があるのか、と聞かれたら答えはイエスだ。衰退期に入ったビジネスでも、努力次第で業績を伸ばせる。
 例えば「ペンション」という言葉で検索トレンドを調査してみると、その検索ニーズは、明らかに衰退の一途。しかし長野県の菅平の「ぷれじ~る」は、開業24年目ながらいまだ成長中。原動力はネット上の情報発信の見直しだ。グーグルの無料情報ソース「グーグルマイビジネス」の情報や写真などを整えたり、グーグルアナリティクスを自らの社員が学び、サイトを工夫したりしたところ、今年の予約は昨年の4倍だ。
 廃業が相次ぐ書店業界も同様に検索数は、04年当時を100とすれば、今年は25まで減少。しかし元気な書店もある。たとえば、盛岡のさわや書店。以前から「天国の本屋」など、のちに映画化されるヒット作の震源地として、知る人ぞ知る書店だったが、近年は、さらに勢いを増している。
 秘訣の一つは、本の表紙を隠して販売する「文庫X」のような、ネットで話題になりやすい企画を仕掛けていることだ。こうしたネット検索では、右肩下がりの産業でも盛り返せるのだから、ネット検索で右肩上がりの和菓子はまだ挑戦すべき領域が大きい。
 ネットで情報発信をするにはデジタルメディアを使いこなすリテラシーが必要だが、時代の変革期に新たな知識を身につける必要があるのはいつも同じだ。
 私は、世の中は70年周期で循環すると考えている。いまは明治維新後と同じフェーズになる。当時も福沢諭吉が「学問のすすめ」で、「手紙の言葉や帳簿の付け方、そろばんの稽古や天秤(てんびん)の取り扱い方」などの実学を学ぶこととをすすめていた。今風に直せば、手紙の言葉は「コピーライティング」、帳簿の付け方は「ファイナンス」、天秤とは「デジタルマーケティング」だろう。もし、福沢諭吉が生きていたら、平成最後のこの夏、何を学べというだろうか?