日経MJ 2018年4月23日掲載

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神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2018年4月23日掲載

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中小企業後継者の婚活支援――人の痛みに共感から商機

 中小企業の倒産数は減少しているが、休廃業は高止まりしている。東京商工リサーチによれば、2017年の倒産数は8405件と9年連続で前年を下回ったが、休廃業は2万8142件と依然高い水準だ。
 その原因の根っこは「後継者不足」と考える人が多いが、中小企業経営者の胸のうちを深掘りしていくと、別の悩みを抱えていることが少なくない。それは「後継者である子供の結婚相手がいない」ことだ。
 同族経営の中小企業にとって、事実上の後継者とは経営者のご子息・ご息女だろう。しかし、彼らが未婚で子供もいないとなると、その次の後継者がいないことになる。すると、金融機関との融資交渉で不利になりかねないし、従業員も将来に対する不安を抱きかねない。できれば後継者である子供には結婚しておいてもらいたいのが経営者の本音。しかし、周囲には言いづらく、結婚したいのに相手が見つからない実の子を見て密かに心を痛めていることが少なくなかった。
 そんな経営者たちの悩みの解消に乗り出したのが、松橋隆広さんだ。
 松橋さんは、経営破綻した山一証券の支店長時代に部下の再就職を支援したのをきっかけに、人材業界に転身。仙台でヒューレックスという人材紹介会社を設立し、「被災した東北を何としても元気にしたい」という思いで、東北地方に営業網を構築し実績をあげてきた。そうして経営者の懐に入り込むなかで知ったのが、後継者の結婚問題だ。
 経営だけを考えれば、成長著しい人材紹介サービスに絞り込む方が賢明だったが、経営者が抱える痛みに、耳を閉ざすことはなかった。そこで13年、異業種である結婚相談サービスに挑戦し、マリッジパートナーズを設立したのである。
 さらに松橋さんが取り組んだのは、東北地方の銀行との提携だ。「銀行が取引先の後継者の婚活に乗り出す」。そんな話をもちかけられ、銀行の幹部のなかには、首を傾げたり、笑い出したりする人もいた。あまりにも意外な組み合わせで、松橋さんの真意が理解できなかったのだ。
 しかし、よくよく考えてみると、銀行にとってメリットは大きかった。銀行は結婚相手を見つけられれば、顧客の経営者とはレベルの違う信頼関係が生まれる。その結果、融資や預金取引の拡大も期待される。さらに次世代に至るまでの長い取引が継続される。
 その結果、青森、山形、北都など東北の銀行12行との提携関係が進み始めた。
 さらに松橋さんは事業承継の業務提携やM&Aなどのサポートも取り組むことで人材採用、事業承継、後継者の婚活を解決できる非常にユニークなプラットフォームを構築。今や全国の銀行や税理士グループなどの提携パートナーを広く集め、全国の中小企業経営者の悩みをトータルで解消する態勢が整いつつある。
 こうした他社がマネできないビジネスを未来に向けて生み出せたのは、松橋さんが他者が気づかなかった痛みに気づけたことに尽きる。他人の痛みに深く共感できることは、実は最高のマーケティング戦略を生み出す源泉となるのである。