日経MJ 2018年3月26日掲載

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神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2018年3月26日掲載

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スマートスピーカー導入の意義――意識改革、身の回りから

 スマートフォン(スマホ)の次に流行するといわれているスマートスピーカー。音声認識の精度がよくなり、昨年からアマゾン、グーグル、LINEなどが一斉に市場に投入した。
 しかし日本での反応は、今ひとつ。スマートスピーカーを持っているかと講演会で聞くと、情報感度が高い経営者層の間でも、手が挙がるのは2%弱だった。
 スマートウオッチはどうか? アップルウオッチの出荷台数がスイスの高級時計を上回ったという報道もあったが、こちらの保有率も、講演会参加者の2%弱。現状を見る限り、スマートテクノロジーの商品は、まだまだリーダー層に売れているとはいえない。
 その大きな理由のひとつは、今、購入しなければならない積極的な理由が見いだせないからだろう。精度があがったといっても、認識ミスをしないように機械に気遣いながら話さなければならない。スマートウオッチも、役立つ機能が見当たらず、万歩計と化している人も多い。
 音声認識技術は大半の企業にとって、ビジネスにならないことも関心が低い理由だろう。もちろん、市場ポテンシャルは大きい。高齢化で独居世帯が増えている今、スマートスピーカーが24時間つながれば、緊急事態に対応しやすくなる。地域のコンビニエンスストアや介護・福祉事業者やNPOが活用し始めれば、非常に大きな価値を地域社会に生み出せるはずだ。
 ただ、導入には、それなりの初期投資が必要。私の会社でスマートスピーカーを使った音声配信・検索サービスを手がけようとしたところ、開発会社からの見積額は1000万円を下らなかった。普及状況を考えると、とても単独では採算が合わない。だからスマートスピーカーやスマートウオッチの技術に、経営者は振り回される必要はないと、結論づけたくなるが……。
 しかし、それでも私は、スマート商品を持つべきだと考える。中でも、特に意外な効果をもたらすのが、事業承継を考えている60歳台の経営者だ。
 最近、30代のご子息が戻ってきて跡を継いでくれたという地方の優良企業の経営者2人と会った。1人はホテル業、もうひとりは飲食チェーンを手がける。共に還暦を迎えている。実は、彼らが共通して身につけていたものがある。それはアップルウオッチだ。
 単なる偶然ではない。中小企業が廃業する理由の多くは「後継者不在」だが、本当に人がいないのではない。先代経営者が新たな考えや変革を嫌うからだ。硬直化した組織をこじ開ける労力をかけるなら、能力ある若手リーダーは、新事業を立ち上げた方がいい。
 一方、スマートウオッチを身につけていた経営者は、還暦を超えても、新しいものを取り入れることに抵抗がない。だから有能な若手が集まり、継承しようという気になるわけだ。
 リーダーが、未来のテクノロジーに好奇心をもたなくなった組織は、急速に衰える。マインドの高齢化を防ぎたいなら、スマートテクノロジーを一つ取り入れること。意識の変革は、身につけるものを変えることから、始まるのである。