日経MJ 2018年3月12日掲載

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日経MJ 2018年3月12日掲載

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金沢の自動車リサイクル事業者――廃車部品の世界市場作る

 この秋、国連で持続可能な開発の成功事例として、スピーチをする日本人経営者がいる。彼は大企業から派遣された代表者でもなければ、社会的事業に巨額の寄付を投じた慈善家でもない。金沢市で自動車リサイクル業を営む会宝産業の創業者、近藤典彦氏だ。
 スピーチのきっかけは、国連開発計画(UNDP)をはじめとした国際機関や政府が主導するビジネス行動要請(Business Call to Action)への加盟が、昨年末に承認されたことである。
 承認企業は、日本では資生堂、住友化学など大企業ばかり。中小企業では会宝産業が初めてだ。
 なぜ認められたのか。それは「ビジネスと途上国開発を同時に達成できるビジネスモデル」を生み出したとして世界的に注目されているからだ。
 廃車を解体し、部品を販売する近藤氏の事業は長年、日本では注目されてこなかった。49年前の立ち上げ当初は「解体屋」と呼ばれたが、近藤氏は、そこに大きな可能性を見出した。
 日本からの中古車は特に途上国で人気だが、現地に行くと、ショッキングな光景が広がる。リサイクルの仕組みが未成熟なため、広大な敷地に、無数の壊れた車が無残な姿で積み上げられているのだ。
 自動車の製造が動脈だとしたら、リサイクルは静脈。この静脈を世界的に整備することが自分たちの使命だ、と近藤氏は考えた。
 そこで始めたのが、輸出向け中古エンジンの価格の適正化だ。それまでは状態に関係なく一山いくらで売られていたが、状態の良いエンジンの価値を高めるため、品質を評価する規格を開発。英国規格協会に世界初の中古エンジン規格として認められた。
 価格相場をつかむために、世界最大の自動車中古部品市場があるUAEのシャルジャで、オークションを開催。そのデータを基に、廃車部品の査定から販売までを一元管理するシステムを構築した。このシステムを惜しげもなく国内外の同業他社に開放。また、リサイクルする技術者を養成する教育事業も始めた。
 取り組みが国際協力機構(JICA)の目に留まり、その援助を受けながら、リサイクル工場をブラジルやケニアなどに設立。国内と海外85カ国の事業者を巻き込み、静脈産業の一大プラットフォームを築いた。
 結果、途上国の事業者が中古部品を適正な価格で売れるようになり、市場が拡大。従来廃棄された部品が売れるようになったことで、ゴミが減り、環境保全にも貢献したのである。
 このグローバルスケールの事業を、社員75名程度のローカル企業が生み出したのだから、実に見事だ。
 海外でスピーチをして喝采を浴びた日本の経営者といえば、ソニーの創業者である盛田昭夫氏がいる。「コピーキャット(模倣者)」と呼ばれていた日本企業の経営者が、米MITの学生にクリエイティビティーを語り、スティーブ・ジョブズをはじめとした経営者の憧れとなった。
 近藤氏も、このスピーチを機に、循環型社会を築くイノベーターとして憧れの存在になるかもしれない。