日経MJ 2018年2月26日掲載

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神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2018年2月26日掲載

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「おもてなし」より必要なこと――まず「不便さ」なくせ

 先日、東京駅近くでタクシーを拾った。運転手は齢70絡みの男性。「表参道ヒルズへ」と東京のタクシー運転手なら知らないはずがない目的地を告げると、「あまり詳しくない」という答えが返ってきた。カーナビに住所を入れるよう頼んだが、使い方に慣れていない。走り出した後も、ナビの指示通りに進めない車線に入ってしまい、同じ箇所をぐるぐるとまわる始末。
 私は怒る気も失せ、シニアになっても働く運転手さんに「お疲れさま」と伝えたが、同時に改めて考えたことがある。それはタクシー運転手に限らず、「すべてのサービスに、これから人による接客は本当にいるのか?」ということだ。
 以前、私は人工知能(AI)が普及すれば、逆に「人は人を求めるようになる」と考えていた。今も、人のサービスが感動をもたらし企業を成長させると信じたい気持ちもある。
 しかし最新の消費調査結果を発表した米国のビジネス書「The Effortless Experience」によれば、人による対応は顧客ロイヤルティーに悪影響を与えるという。人が対応することで顧客流出が加速するとの結果が明らかになった。
 常識を覆す結果だが、理由としてはSNS(交流サイト)の普及により、酷(ひど)い対応をされた顧客はネット上で簡単に悪評を拡散できるようになったことが挙げられる。問題が発生した場合、人による対応が良かった場合には35%がポジティブな口コミをするが、悪かった場合には65%がネガティブな口コミを撒(ま)き散らすという。
 明らかになったのは顧客ロイヤルティーに直結する要因は「顧客に手間をかけさせない」こと。つまり仮に問題が生じても、短時間でスムーズに普通の状態に顧客が戻れれば、顧客は流出しにくいという。タクシーでいえば、とにかくスムーズに手間なく目的地に到達すること。ネットビジネスでいえば、いつでも自分自身でFAQ(よくある質問)やマイアカウントで問題を処理できるということだ。つまり、おもてなしより顧客に手間をかけさせるな、ということが最低限の条件。それが満たされないと顧客は離れていく。
 その必要最低限のサービスができる会社は日本にどれだけあるのか? タクシーについても会社によってどの決済手段が使えるかがバラバラ。電子決済をしても領収書が印刷されるのをじっと待たねばならない。商品について何か疑問があっても、ネットのFAQでは結果が表示されず、コールセンターに電話せざるを得ない……。実は、ありとあらゆるところが不便なのが、いまの日本である。
 にもかかわらず、多くの会社は「日本には『おもてなし』の心がある」といって、顧客を感動させるサービスばかり考えているように見える。しかし、そのサービスは感動をもたらすことに感動している会社側の自己満足に過ぎない、といったら言い過ぎだろうか。
 おもてなしの前に、どれだけ足元の不便を取り除けるか? できなければ、おもてなし日本は、東京五輪がある2年後にインバウンドの流出を加速させることになるのである。