日経MJ 2017年12月25日掲載

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神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2017年12月25日掲載

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ロイヤルオートの「逆算」接客――顧客の幸せ思い描き信頼

 顧客は合理的な判断を下しづらくなってきている。
 米ノースウエスタン大学が実施したネット調査で、ふわふわしたソファと頑丈なソファ、2つの画像を見せて、どちらが欲しいか尋ねた。1回目の調査では頑丈なソファを選んだ人が58%。2回目にふわふわしたソファを2種類用意し3択にしたら、77%の人がふわふわしたソファを選んだ。
 つまり、買い手は「本当に欲しいモノ」ではなく「目立つモノ」を選んでしまったのだ。一貫性のない判断の原因として考えられるのが、人間の情報処理スピードの限界。情報量が多すぎるため、忙しく選択を迫られると本当に欲しいものが判断できなくなる。
 そこで、買い手が本当に欲しいものをじっくり聞くように売り手がアプローチしたら、どうなるか?
 試した結果、来店客の成約率が3割から6割へと倍増させた会社がある。長野県松本市のロイヤルオートサービスだ。
 同社は、新古車を中心に販売する地域有数の自動車販売会社。来店客が欲しい車を、言われるままに売っていたのだが、2年ほど前から家族のライフスタイルをじっくり聞き、ニーズをつかんだ上で最適な車を提案することに切り替えた。
 顧客が欲しいという車を売って何が悪い、と思うかもしれないが、実は、その売り方だと、購入して即売却となるケースが目立ってきた。「自分の趣味で選んだ車を買い、妻とケンカ」「子供が生まれるのに、安さにつられ、子育てに使いづらい車を買った」などが典型。買ってから初めて、本当に欲しい車のスペックや機能に気づくからだ。
 そこで同社が心がけたのが、「家族の幸せな未来から逆算する」こと。車を買って家族が得たいメリットを、来店客と話し合うようにした。すると顧客は、自分以上に自分の家族のニーズを考えて提案してくれる店員を深く信頼。成約率は一気に上がった。
 さらに、ロイヤルオートはこの売り方は、自動車以外にも使えることに気づいた。そこで始めたのが「おうちの相談窓口」だ。顧客からライフスタイルを聞き出し、家族にとってベストな家と住宅メーカーを提案する。メーカーからの販売謝礼を収入源とし、顧客は無料で相談できるようにした。すると家など売ったこともない20代の社員が家を売れるようになった。
 売り手が、買い手以上に広く長い視野で、買い手の幸せを想像できたとき、買い手と売り手とは信頼でつながる。すると、成約率が上がるばかりか、住宅や保険なども売れ始めた。
 社員の定着率も高まった。マニュアル通りの接客は、一時的に売り上げを伸ばせたが、若手や女性社員が次々と辞めてしまった。
 今後、人間の仕事の大半は人工知能(AI)に置き換えられるといわれる。近い将来、アマゾンで車や住宅がどんどん買われるようになるかもしれない。
 しかし、その一方で、愛を持ってサポートする、身近な人間が、今以上に必要になるのではないか。なぜなら人間は合理性だけでは満足できず、思いやりを必要とする、非合理的な生き物だからである。