日経MJ 2017年8月21日掲載

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日経MJ 2017年8月21日掲載

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「木こり講座」人気の秘訣――人手不足、娯楽化で変革

 「あなたも1日で木こりになれる!」と聞いたなら、あなたは木こりになりたいだろうか。実は森林に入って木を切る術を学ぶ「木こり講座」が人気だ。この講座を受講すると、単に「木こり」という肩書きを名刺に入れられるだけでなく、循環型社会をつくる重要なエンジンになれる。
 講座の中身は本格的だ。受講料1万7000円を払うと、青森の森林でプロの木こりに、チェーンソーを使った間伐や木材の搬出などを教えてもらえる。森林で非日常な体験ができるだけでなく、受講後にはチェーンソー取扱技能特別教育修了証が発行され、木こりとして働けるようになる。
 この講座の魅力はそれだけにとどまらない。受講生が間伐することが、社会貢献になるのだ。
 森林の木をすくすく育てるには適度に木を間伐し、間引くことが不可欠。しかし最近は人手不足で間伐できず、荒れ放題の森林が少なくない。そこで受講生が間伐をすれば、森の保全に一役買えるのである。
 さらに間伐した木材は、地元の障害者施設で、大気中の二酸化炭素を増やさないエコ燃料「木質ペレット」に加工される。受講生が間伐することで製造コストが抑えられ、灯油代わりのストーブ燃料にもなった。
 つまり、「木こり講座」が、地元の森林の木を地元で使うエネルギーとして活用する循環型社会を生み出しているのである。
 加えて、受講者は、間伐のお礼に、「モリ券」という地域通貨がもらえる。これで名物を味わい、土産を買えば、地域経済も活性化するというわけだ。
 この仕組みを描いたのは高橋博志さん。リフォーム用木材の通信販売を手がける会社、高橋(青森県三沢市)の社長である。立ち上がったのは、日本の森林に対する危機感からだ。自身も祖父から森林を相続して、森を守る難しさを痛感していた。このままでは日本の豊かな森林が失われ、安価な輸入材ばかりが流通することになりかねない。
 その打開策として行き着いたのが、間伐材でペレットをつくることだ。これなら、森林の荒廃を防ぎながらお金を稼げる。ただ、ネックは、間伐する人がいないことだ。プロの木こりに頼むと、採算がとれない。
 行き詰った高橋さんは悩んだ末、突破口を見つけ出す。それが「木こり講座」だ。木こり体験をレクリエーション化すれば、受講者は楽しめるし、こちらも安く間伐できると考えた。
 反響は高橋さんの予想以上。2013年に第1回目の受講生を募ると、定員20人の枠に、50人以上が応募してきたのである。その後も、東京や大阪、福岡など全国から人が集まっている。ここで得た技術を生かし、自分の地元の森林を整備する人も出てきている。
 この社会変革は、「価値が無い」と思われていたものをビジネス化したことから、すべてが始まった。同様の変革を起こすには、自分たちが嫌がって人手が集まらない作業をエンターテインメント化、学び化するという視点を持ってみよう。あなたが嫌がっている仕事は、社会を変える最高の遊びになる可能性がある。