日経MJ 2017年6月11日掲載

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日経MJ 2017年6月11日掲載

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伊小型EVの販売戦略―一流出し抜く技に学べ

 自動車小売店といえば、最低50坪(165平方メートル)は店舗面積が必要だろう。大阪の梅田に5月、たった5坪の自動車ショールームがオープンした。「BIRO」のショールームだ。
 BIROとは、イタリアのベンチャー企業、エストリマが手がける一人乗りの小型EV(電気自動車、写真)のことだ。
 脱着式のバッテリーを採用し、フル充電したときの最高走行持続距離は100キロメートル。開放感のあるデザインは秀逸で、時計のスウォッチのような多色展開。キーレスエントリーやUSB端子などの装備もそろう。ファッショニスタのための非常にハイエンドなEVである。
 商品の魅力はもちろんだが、もうひとつ注目すべきは、その販売戦略だ。
 普通に考えれば、競合商品は他社の小型EVだが、BIROはランドローバーとした。EVではなく、英国の高級車だ。公式サイトの映像では、若い男性が、ランドローバーに乗ると見せかけて、半分にも満たないサイズのBIROに乗り込み、街を走り抜ける。
 狙いは高級車と対比させて「ランドローバーのような高級車の代わりに選ぶ、高級な小型EV」というイメージを演出することだ。
 背景には、真の競合商品である小型EVとの価格差がある。一人乗りのEVの価格は、トヨタ自動車のコムスなどは60万円台から。BIROは150万円と競合の倍以上する。同一カテゴリー内で比べると「ムチャ高いね」と思われてしまう。しかし、車種によっては1千万円を超えるランドローバーを比較対象にすれば、「150万円ならリーズナブルだね」と見え方が変わってくる。
 問題は「高級な小型EV」に需要があるのかどうかだが、答えはイエスだ。日本ではカツラダモータース(兵庫県西宮市)がBIROの輸入代理店。国内販売に踏み切ったのは、事前調査で「200万円でも300万円でも欲しい」という見込み客が少なからず見つかったからだという。
 このように、全く違ったカテゴリーの商品と比較することで、ビジネスを成り立たせる。それも超一流の商品を出し抜くというか、ダシに使って、富裕層中心の見込み客に強いメッセージを発信する。BIROの戦略は、実に秀逸だ。
 BIROのような小型EVの可能性は計り知れない。例えばSIMカードを搭載すれば「走るスマートフォン」と化し、ナビはもちろん、個々人の行動に合わせた広告を表示できるようになるだろう。そうなれば、無料、もしくは低額のリースで乗れるという可能性も出てくる。また、富裕層に訴求することで、BIROをハブとした富裕層のコミュニティーも形成できる可能性もあり、現に形成され始めている。
 わずか5坪のショールームだが、私は、ここに、近未来のショールームの姿を想像するのである。