日経MJ 2017年5月29日掲載

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神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2017年5月29日掲載

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新規市場創出に「2の効果」―強み絞って組み合わせ

 「商品を絞り込め!」「顧客を絞り込め!」とは、マーケティングの常とう句だけれど、正直、絞り込むのは、簡単じゃない。
 そこで、提案するのが1つに絞るのではなく、今までつながらなかった2つのものに絞り、それを組み合わせる。すると、競争のない世界を、あっさりと出現させられることがある。
 たとえば、かわいい「アイドル」が、本格的な「メタル」を歌うユニット「ベビーメタル」は53年ぶりに米ビルボードTOP40にランクイン。「ペン」と「パイナップル」を組み合わせて歌った「PPAP」も、瞬く間に世界に広がった。
 既存市場を奪うには、1つに絞るのが有効だが、新規市場を創るには、2つを組み合わせればいいのだ。
 この「2の効果」を体感できるのが、とろさば料理専門店「SABAR」だ。この店はサバ料理しか出さないにもかかわらず、急成長。2015年1月の1号店開店から2年間で、全国12店舗、さらにシンガポール店をオープンと、破竹の勢いで成長している。
 「サバ好きって、そんなにいたの?」と突っ込みたくなるが、その質問はSABARを運営する鯖やの右田孝宣社長には響かない。なぜなら、サバ好きがどれだけいるかではなく、どれだけサバ好きにさせられるかが問題だからだ。
 右田社長の大切な仕事のひとつは、サバへの愛を語ること。だから、やることが徹底している。社長は光沢感のある青色、すなわちサバ色のジャケットを常に羽織り、バッグ、その中のペンケースにもサバのイラストが印刷されている。
 会社全体もサバ一色。SABARの各店は38席、品数も38と「サバ」で統一。営業時間は午前11時38分から午後11時38分。そして自らと社員を、サバの伝道師集団(サバリーマン)と呼ぶ。つまり朝から晩までサバに夢中なのだ。
 「SABARの事例は1つに絞って、うまくいったケースではないのか?」。そんな反論もあろう。
 その通り! だが、まだ言っていないことが、ある。それはサバとも飲食業とも関係がない。その1つを加えた結果、鯖やは爆発! 新しい可能性が誕生した。
 その2つ目は、何か?
 答えはクラウドファンディングだ。SABARが急速に全国展開できた理由――。それは店舗資金をクラウドファンディングで調達したからだ。全国38店舗を開くプロジェクトに4千万円以上を集めている。
 資金調達ノウハウを身につけた鯖やの挑戦は、店舗拡大にとどまらない。今年3月8日、栃木県小山市と1億1380万円を調達目標とするサバファンドをスタート。念願のサバ養殖業に着手したのである。
 地味な居酒屋が、クラウドファンディングと出合ったとたん、瞬く間に全国に広がり、さらに漁業にも挑戦。自社の強みやリソースを2つに絞って合わせてみると、既存市場の枠を超える、全く新しい事業モデルが生まれることがある。
 ひとつに絞るという、固定観念を手放せ! そして2つ目の力を探せ!
 「2」という数字は異なる者同士を引き寄せ、未来を創造する力を持つのだ。