日経MJ 2017年5月15日掲載

日経MJ個別記事タイトル

日経MJ掲載の記事をご覧いただけます。
神田昌典の「未来にモテるマーケティング」隔週月曜日掲載

日経MJ 2017年5月15日掲載

日経MJ 2017年5月15日掲載

売れるマーケッターの要件―理系思考にシフトせよ

 マーケティングといえば、クリエーティブ、デザイン、コピーライティングという、どちらかといえば文系人間に持てはやされた分野。しかし、その文系王国が、ひっくり返されようとしている。もはや理系思考を持っていなければ、通用しない時代が到来した。
 例をあげよう。
 カーテンの製造直販の老舗、米スリーデイ・ブラインズはかつて多数のショールームを持ち、来店促進することで売り上げを伸ばしてきた。だが今日、ネット広告で多くの見込み客が集まり、ほとんどのショールームを閉鎖。250人の営業スタッフが顧客を訪問する事業モデルに転換した。
 この転換の原動力が、マーケティングオートメーション(MA)――顧客獲得から生涯価値最大化(LTV)まで、一連のプロセスを自動化するシステムだ。MAの導入後、1人の見込み客を獲得するためのコストは79%減少。同じ広告費で約5倍の面談量になったのだ。
 マーケティングを自動化したとたん、社内会議が変わる。広告「表現」を議論するより、顧客まわりのあらゆる「数値」を取得・改善していくことが重視されるようになる。クリックスルー率、面談率、成約率だけでなく、流出率、紹介率を刻一刻と把握し、最適な一手をタイムリーにとっていく「カスタマーサクセス」と呼ばれる取り組みが、米国企業では広がる。
 営業マンの採用指標、研修テーマ選択やスキル習得状況までを、売り上げ結果との連動により決定していく「データ・ドリブン・マーケティング」が主流になりつつある。
 MAは営業効率の改善以上にマーケティングの常識を破壊する。「顧客ターゲット」という言葉は過去のものになりつつある。
 スリーデイ・ブラインズ社の場合、ターゲット客を明確にするためにしていた、「キャッシー」という女性のペルソナの設定をやめた。性別、年齢、年収を問わず、あらゆる見込み客が自社サイトや広告に触れた瞬間から、上得意客に育てられるようになった結果、ターゲットを手放すほうが、売り上げが伸びるケースが出てきたからだ。
 その結果、文理逆転!
 感性を追求する文系マーケッターは、最新のIT(情報技術)をいち早く取り入れ、LTVを最大化するために、すべてをデータで改善・指示できる理系頭脳による全体デザインの一部にすぎなくなったのだ。米国でのカンファレンスに参加すると、文系的なマーケッターは「昨日のマーケッター」と揶揄されている。
 悔しいことに、こうした動きに、日本企業は、大きく出遅れてしまっている。
 しかし、諦めるのは、まだ早い。今年に入り、最新マーケティング技術は、どの規模の企業でも手の届きやすいコストへと下がり、利便性も増したから、いまからが勝負なのである。

 経営コンサルタントの神田昌典氏が、デジタル時代が本格化する中、未来につながる事業戦略に転換した企業の事例、突破口を開くためのマーケティングの秘訣を紹介します。隔週月曜日の掲載です。