抜本改革なければ廃業か ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/8/19号

2019/8/26

ビジネスモデルを変革しないと3年以内に廃業――。
世界中の企業がそんな危機感にさらされている。

米サイトコア社が世界12カ国の有力企業のマーケティング幹部1200人に調査した結果、
60%の企業・団体が「市場環境の変化への適合にビジネスモデル変革のプレッシャーを受けている」と答えるだけでなく、
全体の3分の1が「3年以内に事業存続を脅かされる」と危惧しているという。

また経産省の調査によれば、日本でも2025年には中小企業の3社に1社が廃業リスクにさらされるという。
25年時点でリタイア期を迎える中小企業経営者のうち、127万人が後継者未定の状態だからだ。

深刻な問題であり、私も10年以上前から講演会で出合う多くの企業に、新規事業に取り組むよう働きかけてきた。

しかし、本音を明かせば、経営者の加齢による「挑戦心」の低下は食い止め難く、
もはや経営力の高い企業によるM&A(合併・買収)の加速しか解決策はないと思えるほどだ。

ただ、企業が従来の成熟したビジネスモデルを「抜本的」に変革する必要があるかというと、そうではない。

マーケッターの観点からいえば、成熟事業の大半は、商品やサービスはそのままでも、
ほんの少し視点を変えるだけで再び成長し始めるからだ。

先日、産業機器加工や製造受託の企業2社から、立て続けに相談を受けた。

両社とも「いつ仕事が減らされるか」という不安から設備投資にお金をかけられないし、
技術者も高齢だから会社の未来が描けないという。

しかし、その現場をみると、驚くほど未来に向けて対応している。

例えば1社は、外国人技術者を積極的に雇用。言葉や習慣の違いを超えて、短期間で技術を習得し、
派遣された大企業の製造現場でも高い評価を得ている。

もう1社は部品製造や修理の緊急対応を常時行う。
打ち合わせの時間を設けずとも、長年の経験による勘で、仕上がりはほれぼれするほどだ。

つまり各社それぞれ技術者の「人材育成」や「良さを引き出しながら、チームで働く組織づくり」に優れている。

事業を続けてきたからこその「強い遺伝子」が、どの企業にもある。
だが、空気のように当たり前になってしまっているから、その価値が自社では見えなくなっている。

それをマーケッターが言語化し、社外に発信すれば、会社同士の相乗効果が明らかになり、
M&Aはもっとスムーズに進められるはずだ。

社外からみれば、日本の製造業の現場は、ポテンシャルが大きい。

アジア各地の大学でAI(人工知能)を学んだ技術者の卵は、日本の製造業への就業を希望しているという。
なぜなら、あらゆるモノがネットにつながるIoT時代には、製造現場でのデータが価値を生むからだ。

このように未来に開ける可能性を勘案したとき、後継者不在の企業を買収した企業の多くは、
想像以上の大きな価値を手にするはずだ。

M&Aの手前で必要なのは、
未来の共通ビジョンを描くマーケティング&アライアンス(連携)とは考えられないだろうか。

 

 

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