神田明神の先進的経営術 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/7/8号

2019/7/15

商売の神様として知られる神田明神で、6月3日、
「宗教×マーケティング」をテーマにした講演をさせていただいた。

クレディセゾンとの改元記念の共催イベントで、同社の会員100人を招待するという、
正式参拝を兼ねた講演会だった。

この機会に神田明神の革新的な活動を学ぶことになった。
令和時代の企業経営の参考になるので、紹介したい。

神田明神は日本三大祭の「神田祭」がおこなわれる江戸の総鎮守。

今年、名誉宮司になった大鳥居信史氏が1987年に宮司に就任してから三十有余年、
参拝者が右肩上がりで増えてきた。

理由は伝統的な神社としては目を見張るような先進的な活動をしている点だ。

今回のクレジットカード会員を対象とした正式参拝も、新しい取り組みだが、
神田明神の最大の特徴は、サブカルチャー分野のコラボを多数行っていることだ。

その代表は、神田明神周辺を舞台にしたアイドルアニメ「ラブライブ!」とのコラボだ。
作中の人気キャラクターが描かれた神田明神の絵馬やお守り、
御朱印帳など多様なグッズを境内で販売し、境内でイベントも開催した。

また、マンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」とのコラボでは、
作者・秋本治氏から、連載40周年と神田明神の遷座400周年を記念した立派な絵巻が奉納。
主人公の両さんの巨大山車も特別に制作した。

その後もコラボは続き、今年も「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」とのタッグで
神田祭限定グッズを販売している。

さらに、神田明神はコンピューターの情報漏えいやセキュリティーに着目し
「IT(情報技術)情報安全守護」というお守りを2002年よりいち早く提供。

今もIT企業などのビジネスパーソンに買い求められている。

インバウンドにも非常に熱心だ。

18年12月には、文化交流館「EDOCCO」を開館。
訪日外国人向けに日本文化を発信する拠点として、伝統芸能のショーや、
着物の着付けや和食などのワークショップを開催し、和食を楽しめるカフェを運営している。

その結果、土日は、参拝客の半数を占めるほど訪日外国人が訪れ、手を合わせている。

以上の取り組みを見ると「商売の神様だから、商売熱心な神社なんだね」と思う人もいるかもしれない。
しかし、多様な取り組みの背景にあるのは、寛容性を大切にする神道の心だ。

大鳥居宮司は、編著をした「神田明神のこころ」で「一神教には対立の構図が明確に表されるのに対し、
八百万の神々がいる神道ではむしろ寛容性が大切にされてきた。
自己主張による対立を、相互が寛容性で薄めるという日本人の傾向性があるように思える」と述べている。

サブカルチャーやIT、インバウンドの取り組みはまさに寛容性を体現する行為だ。

私たちは、経済を繁栄させるために、デジタルによるビジネスモデルの革新を急ぐが、
一方で、伝統を生かすことも大切だ。

その上で、神田明神から学べることは多いのではないだろうか。

 

 

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