日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」記事公開、第3弾!

2017/6/19

自動車小売店といえば、最低50坪(165平方メートル)は店舗面積が必要だろう。

大阪の梅田に5月、たった5坪の自動車ショールームがオープンした。
「BIRO」のショールームだ。

BIROとは、イタリアのベンチャー企業、エストリマが手がける
一人乗りの小型EV(電気自動車、写真)のことだ。

脱着式のバッテリーを採用し、フル充電したときの最高走行持続距離は100キロメートル。
開放感のあるデザインは秀逸で、時計のスウォッチのような多色展開。
キーレスエントリーやUSB端子などの装備もそろう。
ファッショニスタのための非常にハイエンドなEVである。

商品の魅力はもちろんだが、もうひとつ注目すべきは、その販売戦略だ。

普通に考えれば、競合商品は他社の小型EVだが、BIROはランドローバーとした。
EVではなく、英国の高級車だ。

公式サイトの映像では、若い男性が、ランドローバーに乗ると見せかけて、
半分にも満たないサイズのBIROに乗り込み、街を走り抜ける。

狙いは高級車と対比させて
「ランドローバーのような高級車の代わりに選ぶ、高級な小型EV」
というイメージを演出することだ。

背景には、真の競合商品である小型EVとの価格差がある。

一人乗りのEVの価格は、トヨタ自動車のコムスなどは60万円台から。
BIROは150万円と競合の倍以上する。
同一カテゴリー内で比べると「ムチャ高いね」と思われてしまう。

しかし、車種によっては1千万円を超えるランドローバーを比較対象にすれば、
「150万円ならリーズナブルだね」と見え方が変わってくる。

問題は「高級な小型EV」に需要があるのかどうかだが、答えはイエスだ。

日本ではカツラダモータース(兵庫県西宮市)がBIROの輸入代理店。
国内販売に踏み切ったのは、
事前調査で「200万円でも300万円でも欲しい」という見込み客が少なからず見つかったからだという。

このように、全く違ったカテゴリーの商品と比較することで、ビジネスを成り立たせる。
それも超一流の商品を出し抜くというか、ダシに使って、
富裕層中心の見込み客に強いメッセージを発信する。

BIROの戦略は、実に秀逸だ。

BIROのような小型EVの可能性は計り知れない。
例えばSIMカードを搭載すれば「走るスマートフォン」と化し、
ナビはもちろん、個々人の行動に合わせた広告を表示できるようになるだろう。
そうなれば、無料、もしくは低額のリースで乗れるという可能性も出てくる。

また、富裕層に訴求することで、
BIROをハブとした富裕層のコミュニティーも形成できる可能性もあり、
現に形成され始めている。

わずか5坪のショールームだが、
私は、ここに、近未来のショールームの姿を想像するのである。

 

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この記事に登場している企業は神田昌典の次世代マーケティング実践会(*略称The実践会)の会員様です。
The実践会は、ついつい神田が記事にしたくなるような実践を日々されている経営者・経営幹部・地域のリーダーのコミュニティーです。

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