AI時代は現場がヒーロー ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/12/12号

2022/12/19

「裏方」と言われていた仕事が注目されるようになってきた。

かつて、頭脳系事務の仕事はきらきらと輝く花形職業だったが、
会計業務のクラウド化や人工知能(AI)翻訳品質の飛躍的向上などによって将来性が危ぶまれている。

マーケターにおいても、何を自らの砦(とりで)として守るのかを考えなければならない時期に入っている。

こうした時代に脚光を浴びつつあるのが、機械に置き換えられない、身体系の専門職だ。
いままで3Kといわれた仕事、たとえば現場の職人などは、これから注目度が高まるだろう。

そう感じさせてくれたのが、「現場のヒーロー」というサービスを展開する岡山県倉敷市の野田配管工業だ。
発電所やプラントの配管工事を手がける高い技術力を持つ会社である。

配管業界共通の悩みは、職人が育たないことだ。

国家資格の配管技能士を学べば新人でも基礎知識はつくが、
現場対応を教えられる管理職が少ないため、育成が難しい。

職人が育たないと、大変なムダが生じる。
たとえば、管の長さを間違って切れば、その管を再度注文しなければならない。
すると全体的に工期が長くなり、コスト高になる。

そこで同社が始めたのが、職人のスキルアップをサポートする教育型マッチングサービス「現場のヒーロー」だ。

現場の職人を養成するための教育内容を動画で学べるようにしたほか、
仕事を得たい職人と仕事を依頼したい発注元をマッチングするプラットフォームを用意した。

「配管工七つ道具」という配管職人向けアプリもつくった。配管などの寸法を簡単に計算できる。
同社の野田秀太郎社長が段取りのプロであり、IT(情報技術)が得意だったので、
工期のムダをなくす手段として開発したという。

このアプリを海外にも広げれば、配管の技術を学んだうえで日本で就業してもらうことも可能だろうと考えた。

さらに、配管職人のブランディングまで手がけている。
ユニホームに身を包むアスリートのように、現場の職人をカッコ良く見せて、
ユーチューブなどのSNS(交流サイト)で情報発信をしている。

同社のサービスには共通点がある。
それは「現場がヒーロー」ということに徹底的にこだわっていることだ。

その意識が無いとムダな作業ややり直しが減らずに、建設費が下がらない。
すると優良な取引先からリピート発注は得られないし、現場に関わる人の生活レベルを高められない。
何より、最も重要な安全を保つ仕事はできなくなる。

だから、配管技術者が誇りをもって仕事ができるような舞台をつくり、
職業全体のブランドを引き上げていったというわけだ。

いままでマーケティングは、商品を顧客に販売するための効率的な仕組みづくりと考えられてきた。
しかし、人の仕事が機械に置き換えられていく中では、
商品を売ることより、人間しかできないことを見いだすことが重要だ。

数値に表れない、人間のこだわりや汗の部分。
すなわち、裏方に光をもっと当てることが、マーケターが活躍し続けるうえで重要になるだろう。

 

 

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