「笑い」「女性」の力で地方再興 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/11/28号

2022/12/5

岐阜県飛驒市の渡辺酒造店は、地方再興のモデルといえる企業の一つだ。

世界各地で60以上の賞を受賞する高品質な酒造りはもちろん、「蓬莱蔵まつり」を毎年主催し、
限定酒の販売やお笑い芸人のライブ、ダンスショーなどを2日間実施する。

1万5000人もの観光客を集めている。
結果、飛驒に移住して同社に入社する人も増え、会社の成長を担うようになった。

加えて、世界遺産「白川郷」がある自治体の依頼で酒づくりに取り組み、隣町の地方創生にも関わる。
いずれもここ十数年の話だ。

なぜ、このような成長を遂げられたのか。
背景には笑い、女性、そして歴史があった。十数年のプロセスを振り返ってみよう。

業界全体では、日本酒業界は衰退する一方だ。

日本酒の2020年の出荷量は41万キロリットル、と約50年前のピーク時と比べ4分の1以下に減った。
渡辺酒造店の売り上げも減少した。

それを補うため07年に始めたのが「蔵まつり」だ。

だが、どうやって集客をしていいのかわからない。
そこで吉本興業に相談すると、「大阪名物パチパチパンチ」の芸人、島木譲二さんを招くことができた。

当日、島木さんが裸になり、「笑いの力でうまい酒にしてやる。パチパチパーンチ!」と
酒だるに向けて胸をたたくのを見て、渡辺久憲社長はひらめいた。
「お笑いパワー発酵」で楽しいエンターテイメント酒蔵にしようと決意した。

蔵まつりが1万人を集められたのは、地道に顧客と直接つながることを重視していたことも大きい。

顧客の声を聞く一方、紙形式のニュースレターを発行し、自らも発信してきた。
通販事業も立ち上げた。

顧客との関係づくりを先頭に立って進めたのが、ある女性社員だ。
さらにその女性社員が、次のデジタルマーケティング変革で重要な役割を果たした。

インスタグラムやツイッターでの発信や
カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)などを積極的に導入した。
結果、その女性マーケッターの力で蔵まつりが広がっていった。

そんな渡辺酒造店もコロナ禍で蔵まつりができなくなり、飲食店向けの出荷が激減。
売り上げは大幅に落ち込んだ。

しかし、渡辺社長たちを支えたのが同社の150年を超える歴史だ。
多くの逆境を乗り越えてきた。

今回も酒造りの応用で消毒液を製造したり、特別なお酒を造ったりして出荷したところ、
売り上げは過去最高を更新したそうだ。

渡辺酒造店の進化のプロセスを逆回しでみてみると、
マーケティングにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)があり、
DXの担い手になったのが顧客と直接つながってきた女性社員。
そのつながりをもたらしたのが祭りで、祭りに人を集めたのが、笑いであった。

渡辺酒造店は、危機をきっかけに強くなった。
このように強くなる会社、そうでない会社が二分されるのが、時代の変革の最終コーナーである23年だろう。

どの会社も過去を振り返れば、必ず乗り越えてきた歴史があるはずだ。
その壁を乗り越えるためにも、年末は笑うことから始めたい。

 

 

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