新規事業で壁超える ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/9/5号

2022/9/14

当たり前すぎて忘れ去られていた自社の価値が、新規事業とともによみがえる。
その結果、成熟しきったと思われた本業がまた強化される――。

そんな事例として紹介したいのが、「ワンオーファイブ・デニムトウキョウ」である。

ジーンズの原点と言われる「リーバイス501」のビンテージ生地を
ジーンズやスカートなどにリメイクしたヤマサワプレスのブランドだ。

名前の由来は501を逆から読んだもので、それを現代によみがえらせる思いが込められている。

廃棄寸前だったボロボロの生地をよみがえらせたことから「サステナブルなプロダクト」と評価。
大手百貨店で販売され、人気を集めている。

ヤマサワプレスの本業はアパレル製品のアイロンプレスや検品、補修など
出荷前の作業をワンストップでおこなうことだ。

目立たないが技術のいる仕事で、たとえばアイロンプレスは、シルエットを体に合わせて立体的に整えることで、
マネキンが着たときの見え方や人が着たときの心地が全く異なる。

プレス職人の初代社長が確立した技術だ。
しかし、業界では「誰がやっても同じ」となかなか評価されなかった。
さらにブランド服の売れ行きが下がっている現状に、2代目社長の山澤亮治氏は危機感を覚えていた。

そんな折、3年前に打診されたのが「米国にある廃棄寸前の501を大量に買わないか」。
同社はビンテージ品の輸入も手がけていて、501をこよなく愛していた山澤氏は合計20㌧も買い付けた。

ところが、届いた商品を見て絶句した。
ボロボロで臭くシミや汚れだらけ。普通に洗浄しただけでは手の施しようがない〝ゴミ〞だったからだ。

しかし、諦めなかった。1年間かけて特殊な洗浄技術を開発。
ゴミ同然だったジーンズがほぼ無臭になり、ペンキやシミ汚れも消えた上、ビンテージならではの生地の質感を引き出せた。

本業で培った補修技術をフルに活用し、ジーンズを再生させたのである。

今春に伊勢丹新宿店で催したイベントでは、洋服だけでなく靴や家具など72ものブランドや企業・団体が協賛。
ヤマサワプレスが再生したジーンズ生地をリメークし、多くのお客様がつめかけた。

この様子を知った有名EVメーカーからも「デニムで車体ができないか」と問い合わせが入ったという。

服飾学校からも「SDGsの観点から興味を持つ学生と、共にファッションショーができないか」と打診され、ショーを実施。
学生たちにものづくりの工程を体験してもらうことで、学生たちがその楽しさと大変さを知るだけでなく、
教え役の職人が仕事に誇りを持ってくれたという。

新規事業に挑戦することで、企業はさまざまな壁を超えていく。

ヤマサワプレスは、日米の国境を超え、ヴィンテージを現代に生かすことで世代を超え、下請けという役割を超えて、
さらに産業と教育という壁まで超えた。

そして壁を超えて振り返ったとき、自らの本来の強みが見いだせる。
そこに新規事業にチャレンジする意義がある。

 

 

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