東北発、世界へつながる教育 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/6/27号

2022/7/4

6月10日に、「クロスセクター・リーダーズサミット」(主催アルマ・クリエイション社)を開いた。

東日本大震災を機に、ビジネス・教育・行政という分野を超えて
社会問題解決のリーダーシップを発揮してきた人物を表彰・応援するためのイベントだ。

9回目となる本年度、最優秀賞を受賞したのは、福島県立郡山高校教頭の荒康義先生だ。

その理由は、未来の日本にあるべき教育を形あるカリキュラムに落とし込むうえで、
教育現場で多大な努力と貢献をしてきたからだ。

おそらく大半の読者は知らないと思うが、近年、日本の教師による教育変革は着実に成果を挙げている。
なかには世界に多大な影響を与える成果も生まれている。

その一つの例が「OECD東北スクール」が端を発した教育改革だ。

このスクールは、東日本大震災の翌年、経済協力開発機構(OECD)や福島大学などの協力で始まった、
東北の中高生を対象とした国際プロジェクトである。

中高生たちにミッションとして課せられたのが、14年にパリで、東北と日本の魅力と創造的復興を
アピールするための国際的なイベントを企画・実施することだった。

生徒はおろか教員も手探りの状態で、準備は難航したが、15万人を集めるほどの大成功を収めた。

プロジェクトの目的の一つは東北の中高生を、復興を支えるイノベーター人材に育てること。
もう一つは被災地からの教育改革だ。

プロジェクトの教育手法をもとに、急激な社会変化を乗り越えるための21世紀型能力の設定と
その教授法の開発を目指したのである。

この東北スクールで得られた知見も生かしながら、OECDが15年に始めたのが「Education2030」である。

ここでは、世界の子供たちに必要な資質や能力を導出。
それをまとめたのが、19年に公表した「学びの羅針盤(ラーニング・コンパス)」である。

つまり、震災を機に世界と協働した日本の教育改革が、
世界的人材を育成するための学びの羅針盤へと発展したのだ。

この学びの羅針盤をベースに、「ルーブリック」という人材育成要件を作り上げた1人が、
前出の荒先生である。

15年に原発被災地に開校したふたば未来学園高校に勤めていた頃に、
OECD東北スクールの教育方法を生かしたカリキュラムを作り上げることにも尽力した。

荒先生らが関わったふたば未来学園での一連のプロジェクトは、アクティブ・ラーニングの
成功事例の一つとして中教審で報告され、学習指導要領や探究学習にも影響を与えた。

日本では、教育というと、海外の方が進んでいて、日本は遅れていると思われている。
シリコンバレー発の起業教育を取り入れようと熱心になっている自治体もあるとも聞く。

しかし、震災という絶望のなかでなお生きることを決断した教師と子供たちの探究教育と
シリコンバレーの教育、どちらを我々日本人が未来に必要としているかを考えると、答えは明白だ。

この事例のように、世界に誇れる日本発のものは、まだまだ埋もれているに違いない。

 

 

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