新たな価値生む二人組の法則 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/4/25号

2022/5/2

先日、出版社の社長からこんな話を聞いた。
今まで目立ったヒット作を出せなかった編集者が、突然、ベストセラーを連発しはじめたという。

理由は、あるベテラン社長との出会い。
その社長が「こういう切り口の本を出してみたら?」というアドバイスをきっかけに、
著者を発掘したところ、立て続けにヒットしたそうだ。

ただ、それで自信をつけたことで、会社を辞めてしまった、と出版社社長は嘆いていたのだが。

私は、このようなコンビの力を「二人組の法則」と呼んでいる。
異なる力を持ったコンビが互いを補完し合うことで、一人では生み出せない大きな価値を生み出すことだ。

たとえば、ジョン・レノンとポール・マッカートニー、宮崎駿と鈴木敏夫。
経営者であれば、ソニーの井深大と盛田昭夫、グーグルのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが、その代表例である。

私はこの「二人組の法則」がもっと会社の中で見直されるべきだと考えている。
とりわけ活用すべきなのはイノベーションの領域だ。

イノベーションというと、多くの会社が「どうすればイノベーションを生める人材を育成できるか」を課題と捉えている。
しかし、私はそもそも問い自体が間違っていると考えている。

私の考えでは、正しい問いは「いかにイノベーションを生めるようなコンビをつくるか」だ。
二人組の法則を使えば、1+1が2にも3にもなって、一人のときよりはるかにイノベーションが生まれやすい。

その組み合わせは、無数に埋もれている。

敬愛大学の彌島康朗教授が、グループで解決策を見つけ出すアクションラーニング型授業を調べたところ、
ある事実が浮き彫りになった。

それは、成績評価制度のGPAで3.0台の成績優秀者の中に、気づきやアイデアが少ない人が数多くいたことだ。
受験に順応しすぎた結果、アイデアが生めなくなっているのではないかという。

もっとも、成績が良いが気づきが少ない人を改善する必要はない。
成績は悪いが気づきが多い人材と組み合わせればいいのである。

気づきが多い人は0から1を生み出せるが、1を2や3にするのは苦手だ。
一方、1を大きくするのは、成績優秀だけど気づきが少ない人の方が得意である。

そう考えると、これからの企業がすべきなのは、イノベーションを起こせる2人が出会う場を設計すること。
さらには、場だけでなく、出会った人材が、互いの資質を理解し合い、共同で価値をつくる経験を積ませることだ。

ある米国ビジネススクールの入学試験では、最近グループディスカッションを重視している。
志願者の中には日本人もいるが、トップレベルの経歴をもつ優秀な人たちが軒並み不合格になっているという。

理由は、日本人が多様な価値観の中で議論を価値ある方向にリードできる人材が少ないからではないか。

「いかにイノベーションを生めるコンビをつくれるか」「いかに、そのコンビから新しい価値を引き出すか」。
この2つの問いへの答えが、イノベーションの源泉になると考えている。

 

 

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