コロナが突きつけた「食」の問題 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/5/4号

2020/5/11

新型コロナが突きつけた本質的な問題とは何か?
答えは「食」だ。

この1カ月で進んだデジタル変革と同様に、「食の変革」に取り組むべきだというのが、私が行き着いた結論だ。

今回のコロナ問題では、ほぼすべての業種が経済的打撃を受けている。
なかでも最も大打撃を受けたのが飲食・宿泊といった「食にまつわる産業」であることは疑いようがない。

これを乗り切るためには、政府による大規模な財政出動だけでは不十分だ。
新型コロナ問題が過ぎ去っても、また別の感染症が発生する不安もあるからだ。

そう考えると今必要なのは、緊急事態に対応しながら収束後の成長モデルを描くことだ。
それを描かずに対応したところで、一時的な延命策にしかならない。

では日本の成長に必要なことは?

その結論が、冒頭で述べた「食の変革」だ。
国家戦略として、食にまつわる産業を支援することだ。

この50年、日本の食は海外に頼るのが当たり前だと思われてきた。
日本の食料自給率は、昭和40年から長期的に下がり続ける一方だ。

しかし、コロナはその弊害を浮き彫りにした。
海外から食材を運ぶ物流が影響を受けると、自給率が低い日本では、容易に食不足に陥ってしまう。

買いだめをしたところで、1週間以上保存できる健康的な食材は限られている。

また感染症から身を守るのに、自分が口にするものがおいしいかどうかではなく、
どれほど免疫力を高める食材かどうかを、誰もが問い始めている。

こうした状況でクローズアップされてきたのが、飲食業が担っている地域の安全保障である。
飲食業は想像以上に私たちの生活の安全に直結している。

高齢者に日々の健康な食事をつくり、共働き社会で子供たちに安全な食事を提供できる担い手が飲食業だ。
また非常時に食べられる新鮮なもの、保存できるものとして米や味噌、漬物といった日本の伝統食が再評価されていい。

ただ食の変革といっても、従来のように「国内農業を支援する」だけでは足りない。
海外から入る安い農作物を使って、飲食業が発展する図式自体が変わらないと、意味がないからだ。

今後は農業を支援するだけではなく、食を軸に地域生活のトータルな安全保障を再構築することが欠かせない。
その担い手として飲食業や宿泊業を戦略的に活用すべきだと、私は考える。

その一例が、米国のホワイトドッグカフェがつくった生活経済団体「BALLE」だ。
農家や酪農家が地元飲食店に食材を提供することから始まり、
廃棄物処理も含めた、食を軸とした生活経済圏を作り上げている。

工業化社会では製造業が経済の担い手で、飲食業・宿泊業は産業政策として重視されてきた業界とはいえない。
しかし、コロナ後の新しい生活経済圏のあり方を考えると、極めて重要な役割を果たすことになる。

コロナを契機に、日本の食の生活安全保障を真剣に考え、
食料自給率を本格的に逆転していく覚悟が問われているのではないか。

 

 

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