おやつタウン成功の秘訣 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/10/28号

2019/11/4

嶋田さんから3年前に聞いたとき、耳を疑った。
「『ベビースターラーメンのテーマパーク』を企画しているので、手伝う?」というのだ。

嶋田さんとは「ディズニーのすごい集客」の著者で経営コンサルタントの嶋田亘克さん。
私とは旧知の仲だ。

東京ディズニーランドで実績を上げた彼なら不可能はないと思ったが、
エンターテインメントからかけ離れたスナック菓子からどうテーマパークを創るのだろうか?

私を含め、大半の人はイメージできなかったが、今年7月、ついに実現した。
それが津市で開園した「おやつタウン」である。

開園前は「何もない町で、テーマパークが成立するのか」と言われたが、下馬評は覆された。
開園直後から入場制限になるほどの人気となり、来園者の満足度も90%超。

未就学児を含むファミリーの再来園意向率が90%以上と東京ディズニーリゾート(TDR)に匹敵する数値も出始めた。

偉業は高い集客力を持つテーマパークをつくっただけではない。
それはあくまで結果で、真に重要なのは誰もがイメージできないものを現実化した「イノベーションプロセス」だ。

そのプロセスの中核は何か?
それは顧客の内面に深く潜っていくことだ。

嶋田さんらはアトラクションを企画するにあたり、
TDRやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などを研究すると共に、
コピーライティングの手法「エンパシーライティング」を活用。

対象顧客となる家族間のポジティブな会話とネガティブな会話を繰り返し話し合った。
そうして顧客の感情を深く洞察すると、あることに気づいた。

親子で公園に行った時、子が小学3年生以上だと、
親はスマホを見ているか下の子に寄り添うかで、上の子を見ないことだ。

しかし、大きくなっても子供は子供。親に見てもらいたい。
スマホを見る親に、上の子はショックを受けるのだ。

そこで、嶋田さんらが企画したのが、小学3年生以上の子供も親と一緒に遊べ、
自然と親子間の会話が弾むようなアトラクションだ。

その一つが「ホシオくんキッチン」。

「溶かしたチョコにベビースターを入れ自由にトッピング」
「ベビースターを好きな味のスープにつけてオーブンで焼き上げる」など、
少し手を加えるプログラムだ。

幼稚園生もできるが、工夫次第で味や食感を変えられる奥の深さは小学校高学年の子も親と一緒に楽しめる。

加えて、親子でできるアスレチックやスライダーも併設した。
「たっぷり遊んで親子でおやつを食べる」という、かつての日常を味わってもらうのが狙いだ。

結果、「親も楽しめた」「子供が笑顔になれた」という口コミになり、高い集客と満足度につながったのだ。

どの観光地もバーチャルで見られ、行った気になれる。
おやつタウンは、そんな時代に何が大切かを教えてくれる。

それは、外向きではない、内向きのマーケティング。
すなわち、顧客の感情を深く掘り下げて、その感情を揺さぶるようなマーケティングだ。

おやつタウンは新たな地方創生モデルを生んだといっても、大げさではない。

 

 

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