役員をコーチ、1兆ドルの男 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/10/14号

2019/10/21

1兆ドル以上の価値をつくった伝説の男がいる。

グーグル、アマゾン、アップルなど、名だたる米企業の経営陣のコーチである、
元フットボール監督出身のビル・キャンベル氏だ。

2016年に75歳で亡くなったが、経営哲学とコーチング手法を継承しようと、
元グーグルCEOのエリック・シュミット氏が中心となり、
追想の書「Trillion dollar Coach」(未邦訳)が上梓(じょうし)された。

本書はコーチングの概念を覆す。

日本では、コーチングは部下から気付きを引き出す指導法として知られている。
コーチは現場にどっぷり入り込むことはなく、必要なタイミングで介入する。

しかし、最近の米国のコーチは違うらしい。
自らも腕をまくりあげ、現場で一緒に汗をかく。

担当社員だけに指導するのではなく、その社員が率いるチーム全体に働きかける。
そうして大きな実績を達成しても自らは称賛を求めない。

そんなコーチの見本なのが、キャンベル氏なのだ。

実はシュミット氏も、キャンベル氏をコーチに薦められたときは
「優秀なブレーンを何人でも集められる私に、なぜコーチが必要か」と首をかしげたという。

しかし、彼の指導を受けてからは幹部会議に必ずキャンベル氏を同席させるようになった。
問題解決が進むだけではなく、役員チーム全体の人間関係の質が改善していくからだ。

近年、米企業の経営陣の間で優秀なコーチの必要性が増している。

なぜなら、専門的な能力に秀でた幹部社員を集めれば集めるほど、
お互いがライバルになりやすく、組織は動かなくなるからだ。

例えば、キャンベル氏は「同僚はあなたをどのように見ていると思うか?」との質問をよく投げかけたという。
人間関係で問題が起きた際、不調の原因を察知しようとするためだ。

状況をつかむと「同僚はあなたのことをこう高く評価していた」とエグゼクティブ同士の理解を促進させようとする。
同時に「こうすればチームは機能するようになる」とマネジメントの全体品質を改善していくのである。

こうした人間関係をも良好にするコーチは、日本でも必要になり始めていると思う。

なぜなら、デジタル革命によって、仕事では同僚と対面しなくていい環境が当たり前になってしまった結果、
弊害も生まれているからだ。

本来、日本式経営は、チームプレーで結果を上げてきた。
しかし、いつの間にか、コンピューター画面上の、表面的な言葉のキャッチボールを繰り返すだけの、
個人プレーに陥りがちになっている。

何も手を打たなければ、機能不全に陥る組織も多いだろう。
だからこそ、こうした人生経験を積んだコーチが求められている。

驚くことに、キャンベル氏がコーチとして本格的に活躍し始めたのは、50代だ。
日本では再就職が難しいといわれる年代だが、50代は本来、人生で最も脂が乗っている時期といえる。

組織と共に生きてきた経験を、成長企業のコーチとして還元できれば、
まさに活躍の時を迎えられるのではないだろうか?

 

 

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