―――-マインドマップのよさは、紙と色鉛筆さえあれば、誰でもどこでも描けることですよね。マインドマップは、自分の思考を紙の上に外在化させた、まさに“脳の地図”といえます。自分が考えていることが整理できるうえ、話ベタだった人は、話のエキスパートに、アイデアの枯渇に悩んでいた人は、企画が湯水のように浮かんだりと、どんどん頭が柔らかくなる。また、描いた内容がビジュアルとして頭に残りやすいので、記憶力の向上にも役立ちます。
―――-世界中のビジネスマンや学生が「マインドマップ」の恩恵を受けていますが、ブザンさんが手法を思いついたのは、もうずいぶん前のことなんですよね。
ブザン いまから十数年前、学生時代のことです。当時の私は、記憶力と創造力の低下、学業成績の不振に悩んでいました。成績不振の理由を自分なりに分析しようと考え、私は自分のノートのとり方との関連性について調べ始めました。
それまで私は、黒のインクで授業内容をノートに細かく書き込み、試験前にその“文字の束”を必死で覚えようとしていました。そして、重要事項については赤で下線を引き、試験会場のドアの直前まで持ち歩いていました。
―――私にも覚えがあります。
ブザン しかしある日突然、赤で下線を引いたキーワードだけが“金”であり、そのほかの情報は“砂”に過ぎないことに気づいたのです。覚える必要があるのは、赤線を引いた全体のわずか10%の部分だけであると・・・・。
そこで、キーワードだけをノートに書くように変えました。そして、出来上がったノートを眺めたとき、あることに気づいたのです。ひとつのキーワードは別のキーワードと関連性があるということです。そこで関連性の高いキーワードとキーワードの間に矢印をつけたり、思い浮かんだイメージをイラストにして、描きこんだりしました。つまり、ノートをキャンバスのように使ったわけです。
さらに、黒ペン一色だけを使うことにも疑問を感じ、色を足すことにしました。単色のノートはとても退屈だからです。それがキーワードを分類化、組織化する助けとなりました。
こうした学習法を十年、十五年と続けるうちに、ノートは非常に完成度の高いものになりました。私は人生で初めて、明確に物事を見渡すことができるようになったと感じたのです。
―――マインドマップは、人間の思考のメカニズムにそったビジネスツールだと思います。私たちはよいアイデアを出そうとする際、連想ゲームのように思考の枝を広げていきます。その思考のプロセスを俯瞰できる形に表したのがマインドマップなんですね。
そして、もうひとつマインドマップで重要なのが、色を使って描くということ。ちょっと話は横道にそれますが、私は最近、カラーセラピーという、色を用いた治療を体験してみたのです。最初は効能を信じていませんでした。ところが、使い始めると、体の状態に変化が起きたのには驚きました。
ブザン そうでしょう。私たちの身体や脳は、色に反応するようにデザインされていますから。
最近、ロンドン大学である研究結果が発表されました。色と創造力を駆使してマインドマップを使っている人と脳をスキャンしたところ、活発な脳内活動が行われていることが明らかになったのです。
脳の中で、何百万という無数の脳細胞が学習、記憶、思考、創造の作業に関わっています。まあ、一種のミニ国家のようなものですね。それを倒置する皇帝は、私たち自身です。皇帝が色と創造力を駆使することで、脳の中の国民が課題に取り組み適切な答えを導き出してくれる。実にすばらしいことです。
ところが現状は、教育の現場もビジネスの現場も、コミュニケーションから色が奪われています。脳の活動は不活発になり、私たちは自らを飢えさせてしまっているのです。

―――私は、これからの時代はマインドマップ的な思考法がますます重要になると思います。これまでは、テキスト情報が主たるコミュニケーション・メソッドでした。しかし、ブロードバンド時代になると、色やデザイン、或いは音も含めた総合的なコミュニケーションが必要になると思います。
従来は、言語情報の才能に秀でた人がエリートと言われましたが、今後は言語情報とともに、芸術的な知性も求められる。ブザンさんは、私の予想をどう思いますか。
ブザン 最初の見解としては、イエスですね。念を入れて考え直してもイエスです(笑)。
私はイギリス人なので、英語を使ってしゃべっています。ですから、私の第一言語は英語ということになります。しかし例えば私が、頭の中にあるアップルという概念にアクセスしようとしたとします。私の第一言語が英語だからといって、パソコンのキーボードを打つように「A−P−P−L−E」と入力して、情報を引き出そうとはしませんよね。アップルを思い浮かべたとたんに、それがイメージをともなって現れてくるものです。それが人間の脳なのです。正確には、私の第一言語は英語ではなくイメージ、神田さんの第一言語も日本語ではなくイメージということになります。
神田さんが指摘されたように、ブロードバンド革命は、私たちにとって本来の第一言語であるイメージを使ったコミュニケーションを可能にしました。私たちがイメージの領域に入っていくときに、マインドマップは非常に有効なツールだと思います。
人類は、19世紀から20世紀にかけて、直線的な分析や論理の組み立てをするための思考ツールを飛躍的に高めましたが、イメージを引き出すツールがありませんでした。ところが、マインドマップは、イメージを引き出すとともに、イメージと言葉を結びつけ、四方八方に広がる思考を美しい地図にして描くことを可能にしたのです。
―――じつは私が、マインドマップを好きなもうひとつの理由は、さまざまなスキルに対して敬意を示すようになるということです。マインドマップを創るときに、私たちは芸術的なスキル、論理的なスキル、自然に対する感性のスキルなど、さまざまなスキルを使います。一度、マインドマップを体験すると、自分と異なる優れたスキルを持った他者を尊重する気持ちが作られるのですね。
ブザン まったくそのとおりです。マインドマップが示しているのは、「人はみな同じだ」ということです。マインドマップの上では、日本人もイギリス人も同じツールを使って思考しています。でも、同時にマインドマップは、「人はみな違う」ことも教えてくれます。同じキーワード、色、イメージを使っても、完成したマインドマップは驚くほど独創的なものになるからです。
―――マインドマップによって異なるスキルをもつ人の存在を認めるようになり、お互いの優れた部分を出し合いながら一緒にコラボレーションしていくという可能性も広がっていきますよね。ブロードバンド時代がやってくれば、今後はビジネスマンがアーティストと一緒に仕事をする機会も増えるのではないかと思います。

―――さて、そこで問題なのが、日本のビジネスマンや子供たちが置かれている現状です。教育の現場でもビジネスの現場でも、創造性を伸ばす機会が摘み取られているように思います。いまだに、文字を箇条書きにして覚えこませるなど、直線的な思考をベースにした教育が行われている。これは危惧すべき状況ではないかと思うのですが、ブザンさんはどう思われますか?
ブザン 日本のビジネス誌には、「日本は深刻な創造性の危機に瀕している」といった内容の記事がよく載っているようですね。では、他国ではどうでしょうか。おもしろいことに中国では、中国のメディアが「中国は創造性の危機にある」といっています(笑)。アメリカでも「ハーバード・ビジネス・レビュー」などの主要なメディアが、「教育システムに創造性のある考え方を取り込まなければ、五十年以内にアメリカは崩壊する」と警告しています。イギリスも同様です。
―――なるほど。創造性の危機は世界的な課題ということですね。こうした中で特に注目すべきは、韓国や中国を含めたアジアの国々がマインドマップに着目し、国家レベルで教育ツールとして採用しつつあるということです。保守的な日本の教育行政の状況では、とてもそんなことは考えられません。
ブザン そうですね。韓国では義務教育課程でマインドマップが教えられるようになりました。また中国では2008年の北京オリンピックまでに市民が一人当たり英語を100単語覚えるという運動が行われていますが、そのためのツールとして、マインドマップが使われています。
もっとも印象深いのは、マレーシアの例です。
私の著作を読んで興味を持ったマレーシアの若者が、独学で記憶術やマインドマップのスキルを磨き、学習障害のある子供たちのところを回り、手助けする仕事を始めました。そして、マインドマップをもっと知らしめるために、私をマレーシアに招聘したのです。そこで私が行った講義には、マレーシア皇室の王女も出席し、脳の働きに興味を持つようになられました。
やがて彼らは、マインドマップを使った記憶選手権を開きました。大会には当時のマハティール首相も出席し、首相自ら学習と記憶力に障害のある男の子と女の子に対して、六十桁の長い番号を記憶するための問題を出題しました。すると、2人の子どもは五分もかからずに番号を記憶したのです。
この出来事に強い感銘を受けたマハティール首相は、記憶力や創造性の向上のためにマインドマップを活用することを国家的優先課題にすると宣言しました。
現在、マレーシアでは学生や子どもの学習にマインドマップが用いられていますし、大学の中にマインドマップに関係する研究を行うコースの開設準備が進められています。

―――そういうお話を伺っていると、どうやら日本は、アジアの国々からも取り残されていく気がします。

ブザン

これからの時代は人口数百万人規模の小さな国家でも、国民の全てが創造性のある思考を身につけ、その能力をサービス業や技術革新に集中させれば、アメリカや中国、日本といった大国を脅かす存在になるはずです。創造性に関心を持たない国はおくれを取り、つらい道を進むことになるでしょうね。

しかし私は、悲観していません。本当に創造性のある国は、他国に滅んでほしいとは思わないはずです。創造性で優位に立った国は、そうではない国に影響力をもたらしながら、世界全体が創造性を発揮する方向に進んでいくことを期待しているはずですから。

八一バード大学でMBAを取得後、ブリガム・ヤング大学で博士号を取り、同大学の組織行動および経営管理の教授を務め、約30年問にわたり、アメリカの最優良経営コンサルタントとして活躍。

C0VEY LEADERSHlP CENTERを1983年に設立。
97年、フランクリン・クエスト社と合併し、現在、フランクリン・コヴィー社の副会長を務めながら、世界各国の政府やリーダーの]ンサルタントとして活躍中。著書の「The 7Habits Highly Effective people」(邦題『7つの習慣一成功には原則」があった!」)をはじめ、『First Things First』『Principle Centered Leadership』は、いずれもミリオンセラーを記録している。

 

ブロードバンド時代に通用する“創造的なビジネスマン”になるための究極の思考ツール

私はこれまでさまざまなところで2007年末までにブロードバンド環境のインフラ整備がひと段落し、2008年から本格的なブロードバンド時代が到来するだろうと発言してきた。
では、ブロードバンド時代とは何か。ひと言でいえば、全ての会社がテレビコマーシャルできる時代のことである。映像の配信コストが安くなり、誰もがビジュアルを駆使した発信ができるようになるのだ。これは、全ての会社にとって、ビジネスのやり方を根本的に見直さなければならないほどの環境変化である。
たしかに電子メールやWebの出現も、社会にとって大きな出来事だった。だがそこで使われているコミュニケーション・ツールは、依然としてテキスト情報を主体としたものである。

しかし、ブロードバンド時代の到来は、主たるコミュニケーション・ツールが、テキスト情報からビジュアル情報へと移行することを意味している。この変化は、求められる人材にも大きな影響を与える。
従来は学歴の高い人、受験勉強がよくできた人、本がよく読め、サマリーが上手な人が社会的な成功を収めた。しかしブロードバンド時代では、従来は軽視されていた美術的知性や音楽的知性、或いは優れた身体感覚といったものも取り込んだ総合的な知性が求められるようになるのだ。すでにアメリカでは、「成功するビジネスマンになろうと思ったら、まずアートスクールに入学しろ」といったことまで言われるようになっている。

とはいっても、全てのビジネスマンがプロ並みに絵を描いたり、楽器を演奏する力が求められているというわけではない。大切なことは、クリエイティブ・ディレクターとしてのスキル − つまり、多様な才能を持つチームを束ね、顧客が魅力に感じる会社作り、商品作りができるようになることだ。
その際、左脳的な能力とともに、右脳的な能力を働かせ、より訴求力のあるビジュアル表現を理解する感性が必要になってくる。

そうした感性を身につける上で有効なツールがマインドマップだ。マインドマップは、脳の全身運動をわれわれに促してくれる。マインドマップを創るとき、われわれは頭の中に映像を思い浮かべ、色や香りや手触りを付加する。さらに、浮かび上がったイメージを今度は言葉に変換して、紙の上に書き記す。

この一連の作業を、私たちは左脳と右脳をフル回転させながら行っているわけだが、マインドマップは、論理優先の思考を行ってきた人が創造性を取り戻すために、最もシンプルで効果的なツールだと思う。逆に、いままで論理的に考えるのが苦手だった人にとっては、筋道だてて文章にしたり、人前で話すことがスムーズになるツールである。
こうした創造性を発揮するためのトレーニングは、年齢が若い人ほどよいという印象があるが、実際には、簡単なツールを学んでしまえば、年齢に関わらず誰でも想像力を開花することができる。むしろ印象とは逆に、年齢を重ねるほど、人間は創造的になれる可能性を秘めている。なぜなら、アイデアは、既存の知識と新しい知識が結びつくときに生まれるからだ。

年齢が上がるにしたがって、既存の知識や体験量は増えていく。そこに新しい知識(異分野の知識)を組み込むことで、アイデアが発生する素地が出来上がる。あとは、既存の知識と新しい知識を結びつけるシナプスを、マインドマップによって鍛え上げていけばいいというわけだ。
こんなことを話している私自身、実はかつては、非常に創造性の乏しい人間だった。何しろ私の最初の仕事は中央官庁の役人で、クリエイティビティーを発揮してしまえば、変人という烙印を捺されかねなかったのだ。

私がマインドマップと出会ったのは、アメリカのコンサルティング会社勤務時代。それ以来、ビジネスモデルを考えるときや講演準備など、さまざまな場面でマインドマップを愛用させてもらっている。すっかり私のクリエイティビティーは開花。いまや過去の私の能力では決してありえない、連載小説まで執筆するようになっている。

芸術的感性や潜在意識を活性化させるためのツールは、マインドマップ以外にもあるだろう。マインドマップの長所は、15分もあればやり方を覚えられ、取り組むことができる点だ。はじめの一歩としては、文句なしにすばらしいツールであると思う。

 

『THE 21』2006年3月号/PHP研究所

「トニー・ブザンの「マインドマップ論」に神田昌典が迫る!
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この文章は、PHP研究所様のご好意により、記事中テキストのみを掲載させていただいております。

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