これからの知的労働者は、目標を設定するのも変更するのも、必ず自分たちで行なうというのが、当たり前になってくるでしょう。
―――会社で与えられる営業目標も、同じように柔軟に考えていいのでしょうか。
―――ところで、私の知人が一念発起して家族のミッション・ステートメントをつくり、娘に「「これがわが家の家訓だ」と伝えたら、まるで相手にされなかったとこぼしていました。やはり、プロセスに問題があったのでしょうか。
その彼の間違いは、自分で決めたミツション・ステートメントを娘さんに伝えようとしたところにあります。家族のミッション・ステートメントは父親が伝えるものではなく、あくまで家族みんなで考えるものなのです。私の家にもミッション・ステートメントがありますが、それを決めるのにはじつに八カ月かかりました。
八一バード大学でMBAを取得後、ブリガム・ヤング大学で博士号を取り、同大学の組織行動および経営管理の教授を務め、約30年問にわたり、アメリカの最優良経営コンサルタントとして活躍。
C0VEY LEADERSHlP CENTERを1983年に設立。 97年、フランクリン・クエスト社と合併し、現在、フランクリン・コヴィー社の副会長を務めながら、世界各国の政府やリーダーの]ンサルタントとして活躍中。著書の「The 7Habits Highly Effective people」(邦題『7つの習慣一成功には原則」があった!」)をはじめ、『First Things First』『Principle Centered Leadership』は、いずれもミリオンセラーを記録している。
今回の対談は驚きの連続だった。当初私は、1ヵ月、1年、10年などと目標を短・中長期に分け、どうすればそれをうまく達成できるかといった話を、コヴィー博士がされるのではないかと予想していた。しかし、実際は違った。
コヴィー博士は、一度決めた目標に対して、それほど執着しなくていいという。むしろ、大事なのは、「目分の内なる声」を聞いて、それに従うこと。その決意さえできていれば、あらかじめ立てた目標をその場、その場で柔軟に変えてもかまわないし、実際、コヴィー博士もそうしているそうである。
また、多くの時問を費やして家族の話をされたのも印象的だった。コヴィー家はそのミッション・ステートメントを完成するのに8ヵ月もかかり、しかもその話し合いのために、毎週家族が集まったのだそうだ。家訓をつくるのに家族全員が8ヵ月も時問をかけるなど、日本ではまず考えられない。文化の違いといってしまえばそれまでだが、それ以上の深い意味があるようだ。
よく考えれば、家族ほどマネジメントが難しい組織はない。そこには、金銭的な報酬が介在しないからだ。家族がそれぞれ望ましい役割をこなし、一つの集団として機能するためには、理念や愛という、どうしても抽象的な言葉で表現せざるを得ない何かが必要だ。ところが、たとえば父親がそれを決めたとして、他の家族を従わせようとしたところで、うまくいかない。家訓を共有する唯一の方法は、全員が話し合いに加わり、それぞれの内なる声をすり合わせながら、時問をかけて一致点を探していくしかないのである。
この考え方は、そっくりそのまま、プロジェクト・チームのマネジメント・システムに応用できる。プロジェクトとして成果を挙げるためには、個々のメンバーが最高のパフォーマンスを発揮しなければならない。それには、絶対に目標を達成してみせるぞという強い覚悟を、メンバー全員がもたなければならないのだ。 それは結局、仕事の目的や意義について、みんなが納得するプ□セスで話し合う必要があるのだ。だが、いかに目標を達成するかといった戦略会議には時問をかけても、目標そのものを決めるに際し、メンバーの意思統一をじっくり時間をかけてやるというプロジェクトが日本にどれだけあるか、疑問である。
日本企業が目標というものの本質をきちんと理解していないことの一面は、成果主義賃金制度の導入の仕方にも現われている。多くの場合、日本企業の目標管理シートは、1行目に今年達成すべき、″目標″を書く欄がある。しかし本来、そこにあなたが書くべきことは、あなたの内なる声に従った、あなたのミッション・ステートメントのはずである。むろん、それを上司が理解していることも大切だ。
これは余談だが、私はこれまで投資先を評価するのに、必ず経営者の夫婦仲をチェックしてきた。奥さん1人相手にすらリーダーシップを発揮できない人が、会社でよきリーダーになれるとは思えないからだ。古今東西ありとあらゆる成功のメカニズムを知り尽くしているコヴィー博士が、家族の大切さをあれだけ強調したこと、ぜひ読者の方も肝に銘じておいてほしい。
現在、コヴィー博士はアメリカ西海岸に「責任の像」をつくろうと奔走している。これはいうまでもなく、東海岸の「自由の女神像」に対するものだ。コヴィー博士は、「責任の像」をつくることで、エゴにまみれた現代のアメリカに「目由は責任を伴う」という普遍的真理を教えようとしている。彼がもう70歳を超えていることを考えると、その情熱とエネルギーには驚愕するよりほかない。わたしたちも、コヴィー博士にあやかり、知的情報社会における新しい、企業像、組織像というものをつくり上げていこうではないか。
『THE 21』2005年1月号/PHP研究所 新年特別企画
「S・R・コヴィー博士の成功法則」に神田昌典が迫る! ※無断転載を禁止いたします。 この文章は、PHP研究所様のご好意により、記事中テキストのみを掲載させていただいております。