金沢の自動車リサイクル事業者 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」3/12号

2018/3/19

この秋、国連で持続可能な開発の成功事例として、スピーチをする日本人経営者がいる。

彼は大企業から派遣された代表者でもなければ、
社会的事業に巨額の寄付を投じた慈善家でもない。

金沢市で自動車リサイクル業を営む会宝産業の創業者、近藤典彦氏だ。

スピーチのきっかけは、国連開発計画(UNDP)をはじめとした国際機関や政府が主導する
ビジネス行動要請(Business Call to Action)への加盟が、昨年末に承認されたことである。

承認企業は、日本では資生堂、住友化学など大企業ばかり。
中小企業では会宝産業が初めてだ。

なぜ認められたのか。

それは「ビジネスと途上国開発を同時に達成できるビジネスモデル」を生み出したとして
世界的に注目されているからだ。

廃車を解体し、部品を販売する近藤氏の事業は長年、日本では注目されてこなかった。
49年前の立ち上げ当初は「解体屋」と呼ばれたが、
近藤氏は、そこに大きな可能性を見出した。

日本からの中古車は特に途上国で人気だが、現地に行くと、ショッキングな光景が広がる。
リサイクルの仕組みが未成熟なため、
広大な敷地に、無数の壊れた車が無残な姿で積み上げられているのだ。

自動車の製造が動脈だとしたら、リサイクルは静脈。
この静脈を世界的に整備することが自分たちの使命だ、と近藤氏は考えた。

そこで始めたのが、輸出向け中古エンジンの価格の適正化だ。

それまでは状態に関係なく一山いくらで売られていたが、
状態の良いエンジンの価値を高めるため、品質を評価する規格を開発。
英国規格協会に世界初の中古エンジン規格として認められた。

価格相場をつかむために、
世界最大の自動車中古部品市場があるUAEのシャルジャで、オークションを開催。
そのデータを基に、廃車部品の査定から販売までを一元管理するシステムを構築した。

このシステムを惜しげもなく国内外の同業他社に開放。
また、リサイクルする技術者を養成する教育事業も始めた。

取り組みが国際協力機構(JICA)の目に留まり、その援助を受けながら、
リサイクル工場をブラジルやケニアなどに設立。
国内と海外85カ国の事業者を巻き込み、静脈産業の一大プラットフォームを築いた。

結果、途上国の事業者が中古部品を適正な価格で売れるようになり、市場が拡大。
従来廃棄された部品が売れるようになったことで、
ゴミが減り、環境保全にも貢献したのである。

このグローバルスケールの事業を、
社員75名程度のローカル企業が生み出したのだから、実に見事だ。

海外でスピーチをして喝采を浴びた日本の経営者といえば、
ソニーの創業者である盛田昭夫氏がいる。

「コピーキャット(模倣者)」と呼ばれていた日本企業の経営者が、
米MITの学生にクリエイティビティーを語り、
スティーブ・ジョブズをはじめとした経営者の憧れとなった。

近藤氏も、このスピーチを機に、
循環型社会を築くイノベーターとして憧れの存在になるかもしれない。

 

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この記事に登場している企業は神田昌典の次世代マーケティング実践会(*略称The実践会)の会員様です。
The実践会は、ついつい神田が記事にしたくなるような実践を日々されている経営者・経営幹部・地域のリーダーのコミュニティーです。

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