神田昌典 新刊案内
「バブル再来」
The Next Great Bubble Boom
著者: ハリー・S・デント・ジュニア
監訳: 神田昌典
訳: 飯岡 美紀
価格: 2,100円
出版社: ダイヤモンド社
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予測に依存すれば、予測に裏切られる。

1992年春。米国ペンシルバニア。
ビジネススクールの卒業式で、私のアメリカ人クラスメートの顔色は暗かった。


MBAをとったのに、希望どおりの職につけない・・・。
入学したときには、売り手市場だった就職戦線は、2年後の卒業時には一転して買い手市場になっていた。


当時、米国は1987年のブラックマンデーからはじまった不況の真っ只中。米国企業の競争力低下、金融機関の相次ぐ破綻、そして貿易・財政の双子の赤字で、米国経済の見通しは悲観一色だった。

他方、日本経済は ― 株価は89年末をピークに下落していたものの ― まだまだバブルの熱から醒めやらず、日本人留学生は得意になって日本企業の強さを授業で語れた時代だった。米国人がまったく自信を失っている。そんな状況下で、本書著者ハリー・S・デント氏の著作「経済の法則」(原題“THE GREAT BOOM AHEAD”)が出版された。

デント氏が同書で展開した景気予測は、誰もが鼻で笑ってしまうほど現実ばなれしたものだった。

・2007年までにはNYダウ平均は、少なくとも7000j台になる。
・96年から98年の間に日経平均は最安値を更新、1万4千円になる。

上記の数値はいまでこそ意外性はないが、当時は一笑に付されるほど無謀な予測だった。

しかし、あれから10余年たってみると・・・異端だったデント氏の予測が、現実となってしまっている。

デント氏の大胆な予測は、続いた。1999年、「2000年資本主義社会の未来」(原題 THE ROARING 2000s)を出版。2008年後半か2009年までに、NYダウ平均が3万5千ドルから4万ドルに達するという予測を発表。今世紀最大 ― そして最後の ― バブル景気が訪れると言い切った。

この予測は、皮肉にも翌年におこったネットバブル崩壊によって外れたかと思われた。しかし、デント氏は自らの分析をふたたび見直し、本書「バブル再来」(原題 THE NEXT GREAT BUBBLE BOOM)を出版。ネットバブル崩壊は、最高値を目指すための調整であって、米国はいまだバブル景気の途中であると結論づけている。ふたたびネット企業が成長している今でこそ、彼の議論に耳を傾ける気にもなるが、デント氏が原稿を執筆していた当時は、あと数十年は株の買い時は訪れないと誰もが信じていたはずだ。

彼の、大胆な予測はどこまで当たるのか? 

NYダウ平均は、2006年3月17日時点で、1万1253j。連日高値を更新しているとはいうものの、あと2年で3倍以上に到達するというのは、とてつもない夢物語に聞こえる ― 10余年前に、彼の予測を誰も信じる専門家がいなかったときのように・・・。

プロの投資家やエコノミストからすれば、人口動態というあまりに単純な切り口で、数十年先の株価やインフレ率、失業率を年単位で予測できると断言してしまうのだから、デント氏の分析に対する疑問や批判は多いだろう。また人口動態だけではとても導き出せないとおもわれる予測まで本書には記述されており、分析を重視する専門家にとっては、より詳細な論拠が欲しいところだ。

それでも、デント氏の分析手法は、批判者すらも巻き込んでしまう影響力を持っている。単純すぎると疑いながらも、それ以上に説得力のある長期予測モデルを出すことができない。その結果、批判しながらも、いつの間にか彼の思考パラダイムのなかで、世の中をみてしまっている。

他のすべての予測と同様に、デント氏の予測が外れることはある。そもそも100%的中するというのは、詐欺師のセリフであって、それを期待するほうが愚かである。また予測というのは的中率が高ければ高いほど、外れるときには手ひどく外れるものなのだ。だから、予測は的中率が高いことに価値があるのではない。的中率よりも、それをきっかけに自分で考える力が高まるかどうか。つまり魔法の杖を期待するのではなく、自分の頭で賢く分析・判断できるようになるかどうかに価値があるのである。

その意味で、本書は ― 米国株に関心がない日本の読者にとっても ― 類書がないほど貴重な予測書であるといえる。

本書を通じてデント氏の予測手法を理解していくと、不思議なことが起こる。経済や株価が在庫循環、株価収益率、キャッシュフローといった無機質な数値で分析・評価されるものではなく、血が通った生命体としてみえてくるのである。

彼の分析の根底には、誰もが日常生活で体験していること ― 何歳ぐらいに結婚して、何歳ぐらいに子供が生まれ、何歳ぐらいに子供が学校にいき、何歳ぐらいに成人し、何歳ぐらいに引退し、何歳ぐらいに死ぬのか。そういったライフサイクルに応じた消費支出がベースにある。いいかえれば、誰もが経験する人生のドラマ、その総体として経済がなりたっている。その結果、デント氏の予測手法になじんでくると、経済についての洞察力が深化しはじめる。

たとえば、デント氏の思考法になじんでくれば、自宅の購入・売却タイミング、起業・引退タイミング、入社・転職タイミングが予測できるようになる。とくに本書の207頁に示されている、自社の業績の伸張・鈍化タイミングの分析法は、とても貴重な視点である。経営者や経営幹部社員にとっては、中長期的にかなり有効な羅針盤を提供してくれるではないだろうか?

その意味で本書は、投資家のみならず、経営者および経営幹部社員にぜひお読みいただきたい内容である。とくに最終章の、「ニュー・ミリオネア・エコノミー」は短いながらも、1冊の書籍を読む以上の、情報が得られることだろう。二極化が伸展する日本において、まさにこれから課題になってくる富裕層へのマーケティング法についてヒントが満載だ。

経営者およびエクゼクティブの方々には、本書を購入したら、マーカーとノートを持って自室に入り、内側からドアをロックすることをお勧めする。自社にとって有効なアイデアを、ノートにランダムに書きなぐって欲しい。数時間後には、2022年にいたるまでの事業アイデアで、ノートが埋まっているだろう。

デント氏の予測によれば、日本は、人口動態が有利に働くために、2008年ごろから2020年にいたるまで好況になるとのことである。繰り返しいうが、これが当たるかどうかは、さほど重要ではない。重要なことは、日本は人口動態上、消費支出が伸びやすい環境に向かっていることであり、好況が現実となるかは、その環境下で、われわれが顧客に満足と幸福を与えるビジネスを展開できるかどうかにかかっているのであろう。

未来は決まっていると予測に依存したとたんに、われわれは裏切られる。

大切なことは、われわれ日本人が将来のビジョンを、この追い風のなかで実現できるかどうかなのである。

とくに日本が好況となる時期が、欧米が不況であえぐ時期と重なるのであれば、そのときこそ、われわれが世界に向かって手を差し伸べる時期となる。そのときこそ ― 

日本発の創造的なビジネスとテクノロジーを世界にむかって発信する時期になると、私は予測している。


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本書で、デント氏は米国のライフサイクル統計に基づき、消費支出が最も高まる年齢を46歳と50歳としており、それを日本における景気予測についても利用している。ところが総務省「家庭調査年報」によれば、日本において消費支出が最も高まる年齢は40歳代よりは50歳代となっている。そこで彼の分析手法を日本においてもとるのであれば、人口動態が景気に有利に働きかけるのは2008年ではなくさらに数年先になることも考えられる。それにも関わらず、日本において2006年より景気回復がみられているのは団塊世代の消費拡大という要因が影響していると思われる。デント氏の予測は、日本経済の大きなトレンドを把握するためには貴重な情報となるものの、投資判断の指標とする場合には、それを鵜呑みにすべきではない。日本のライフサイクル統計による、さらに詳細な分析が必要となろう。
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