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| 神田 昌典 (著) |
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「成功者の告白」プロローグ
大きな夢をもち、前向きに頑張れば必ず成功する。
このような成功法則を私は信じてきた。そして、それは必ずしも間違いではなかった。
その結果、私は豊かになった。でもハッピーエンドでは終わらなかった。
いまでも心に突き刺さることがある。なぜなら成功を目指す過程で、いくつもの地雷を踏んでしまったからだ。
成功に向かう道には、いくつもの地雷が埋まっている。成功が実現するに応じて、それと等価の困難や障害が用意されていたのだ。
その地雷は、仕事の範囲内で爆発するわけではない。ビジネスで勝ち得たことが、ビジネスで失うものになる。そんなシンプルな因果関係で収まるならば、まだ対応できるだろう。自分が痛い思いをすればいいだけの話だ。
しかし現実は違う。全く想定しないところで、どちらかといえばプライベートな部分で、地雷は爆発する。
私が踏んでしまった地雷の例をあげよう。
・3歳になった長男の足に、ある日、無数のアザができていることを妻が見つける。病院にいくと緊急入院。突発性血小板減少紫斑病という病気。赤血球の数が異常に少なく、転んだだけで、脳内の血管から血液が滲み出して死に至るというギリギリの状況。
・長女は同じく3歳のころ、原因不明の腹痛に襲われる。病院で腸が癒着していると分かり、空気をいれることで緊急対処。腸が破裂して死亡する危険性を指摘される。
・家に帰ったら、妻がいない。離婚届がポストに。
・社員が3人続けて、ストレスが原因のメニエール病で倒れる。業務にならず苦情が殺到。
・同志のコンサルタントが、鬱病に。回復して元気を取り戻したと安心していたおりに、自ら命を絶った。
こんな数々の障害が降りかかってきた。私はその度に、たまたま運が悪かったのだと自分を慰めた。私個人に起こった例外的な事象であるとも思っていた。しかし残念なことに、決して例外ではなかったのだ。
大きな成功を実現していく過程では、確実に障害が降りかかる。成功だけを持ち逃げできない。私は単なる精神的な諌めとして言っているのではない。本当に、事実なのである。私が確信できる理由は、短期間に急成長する会社経営者の多くの事例を見てきたからである。
自分でいうのは何だが、私はビジネス・チャンスを見極め、売れる仕組みを組み立てることに関しては才能がある。いままで1万人を超える経営者にそのノウハウを教えてきた。その結果、ほんの数年で、数多くの成功者を生み出してきた実績には自負を持っている。
そうした成功者からの相談を受けているうちに、私はあるパターンがあることに気づいた。ビジネスの成長段階に応じて、どの会社でも同じような問題が勃発するのだ。とくにやっかいだったのは成長が加速化すると、家庭問題が頻発する点だった。
いままでMBAとして米国での論理的経営手法を教え込まれた私には、経営と家庭問題との因果関係はにわかには信じがたかった。しかしビジネスの論理を超えた経験則には、無視するには重要すぎるものがある。
あなたも聞いたことがあるだろう。
巨額な利益をあげた投機家は、ろくな死に方をしない。
巨富を築いた成功者の子供が、問題児に。
偉大な経営者の家庭は破綻。夫婦別居で、愛人がそこらじゅうに。
成功者として本を出版したとたん、会社業績が急降下。
これらの話は例外であり、誰にでも起こる法則ではないと思いたい。しかし例外にしては頻繁に起こりすぎる。成功者には影の部分が歴然としてあるのだが、マスコミではほとんど触れられていない。新聞・雑誌記事は成功者のビジネスにのみ光を当て、英雄像をつくりあげる。しかし仕事熱心な成功者のプライベートな部分に焦点を合わせれば、英雄像はとたんに色褪せる。
事故、病気、家庭内離婚、愛人騒動、親子断絶、家庭内暴力、不登校、引きこもり、うつ病等、機能不全を起している家庭は珍しくない。朝のワイドショーで騒がれる少年犯罪は、どちらかといえば社会的なステイタスが高い家庭で起こっているのだ
成功すれば、困難も増えるなんていう話は、楽しくない。一所懸命、前向きに生きている人ほど迷信だと思いたくなる。ポジティブなことだけ言っていれば、話すほうも聞くほうも気持ちがいい。本の内容としても、事実を覆い隠して、前向きなことだけを書くほうが、爽やかな清涼剤となって売れるだろう。
ビジネスで光が当れば、その他の部分で影が噴出するという事実 − 成功のジレンマ − は、誰もが触れたくないテーマである。その難しいテーマに、本書ではあえて踏み込みたい。
なぜこのテーマに取り組むかといえば、このジレンマの対応法について、かなり説明できるようになってきたからである。ビジネスの成長過程の、どこに地雷は埋め込まれているのか。その地雷を踏まないためには、どのタイミングで、どんな措置を取っておかなければならないのか。こうした障害の予測法、うまい乗り越え方、ビジネスの成功と家庭のバランスをトータルにとる方法について、私は自分自身の失敗と苦労を通して学んできた。
その結果、分かったことは、どの会社も、実に同じパターンで障害にぶつかるということだった。そのパターンが見えると、ほんの少しの事実を聞いただけで、これから会社で何が起こるのか、その経営者および社員の家庭で何が起こっているのかという推測ができるようになってくる。
ひとつ事例をあげよう。
先日、株式公開している、あるベンチャー企業の社員とあったときのことだ。社員数50名ほどの会社である。私にビジネス上の提案をもってきた。
「うちの会社は、担当者と社長が直結していますから、決定が早いです。この企画も社長に話せば一発でOKです。」
この会社の社長はカリスマとして有名である。
そこで、あなたにクイズを出してみたい。
これだけの情報で、この会社について、何を予測・洞察できることだろうか?
「これだけじゃ、何も分かるはずがないじゃないか。」多くの人は、訝しがると思う。もしくは、「この会社の組織はフラットだから、自由闊達な雰囲気なんだろう。」そのように予想する人もいるかも知れない。
私の彼に対する答えは次のようだった。
「よろしければ、少し気づいたことがあるので、お話していいですか?」
「えぇ、お願いします。」
「社内に非常にやる気をなくしている問題社員がいると思うんです。そして、その問題社員を辞めさせようという雰囲気が社内にはあるかも知れません。でも、クビを切れば済む問題じゃない。以前も、そのような社員がいたと思いますが、その問題社員を切ったとたんに、別の問題社員が新たに出てきたでしょう?」
彼は「そうだ、そうだ」と頷きながら、私の話を聞いている。
「典型的には、そうした経営者の家庭はうまくいっていません。」
彼の表情は、今度は驚きに変わった。
「そのとおりです。二度ほど離婚しています。でも、なんでそんなことが分かるんですか?」
私は、彼の質問には答えずに、気づいたことを話し続けた。
「フラットな組織ということは、社長のカリスマ性で組織がもっているということです。だから、創業時からの社員で社長のまわりを固められているんじゃないでしょうか? 管理部門は社長のいいなりなので、骨抜きです。すると、このままのペースで成長しつづけると、数年のうちに、組織に亀裂が入るはずです。ところで、あなたは創業時からのメンバーではないですよね。」
「そうです。最近、ほかの会社から引き抜かれました。」
「一般的な話ですから、あなたには関係ないかも知れませんが、こういった組織の場合、外部からきた社員がいきなり実績をあげると、社内にはいにくくなることが多いのです。その場合には、まずは周囲とペースを合わせ、協調することからはじめるとうまくいきます。」
このように会社の情報を少し聞いただけでも、その経営者の家庭状況、組織で地雷が爆発するタイミング、導火線に着火する人まで分かるのである。私の推測をまとめると、次のとおりだった。
・社長のペースは留まるところを知らず、その動きにストップをかけるかのように、問題社員がでてくるということ。
・業績をあげればあげるほど、組織の問題が大きくなっていくこと。
・カリスマ社長のエネルギーが枯渇したときに、社内はバラバラになること。そして、そのタイミングは、企業のライフサイクルによってある程度、予測がつくということ。
・社内混乱の引き金を引くのは、意外にも、社長が一番信頼している右腕社員であること。
・社内が創業時からのイエスマンの集まりになっているので、異分子は弾き飛ばされやすいこと。
・社長の父親が非常に厳しい父親であったこと。そして、父親に対する怒りが未解決であること。
・社長の家庭、とくに子供が問題を抱えていること。
「なんで、こんなことまで推測できるのか?」
企業の成長シナリオの展開パターンを知っているからである。そして、その展開パターンは何通りもあるわけではない。単純なパターンなのだが、舞台が異なり、役者が異なるために複雑に見える。全国200万社には、200万社なりの独自の成長シナリオがあると常識的には考えられている。しかし、そのシナリオのパターンは多くて3〜4つしかないなのではないかと思っている。
「そんなバカな」と抵抗されるのは分かっている。自分の会社には、自分の会社の事情があり、自分の家庭には、自分の家庭の事情はあると思いたいだろう。
そこで、もうひとつクイズを出してみたい。
映画は、いままで何十万本も作り出されているだろうが、その映画には、いったい何種類ぐらいの物語の展開パターンがあるだろうか?
映画は、ひとつひとつの物語がすべて異なるものと認識されている。しかし、そのシナリオの展開パターンのみに注意すれば、そのパターンは、ほんの数種類しかないことが分かる。しかも90%以上は、神話学者ジョゼフ・キャンベルが分析した神話の展開パターン、英雄の成長物語(ヒーローズジャーニー)に沿って作られている。「スター・ウォーズ」も、「タイタニック」も、「プリティ・ウーマン」も、「千と千尋の神隠し」も物語の展開パターンは同じ。つまり、我々は同じパターンを繰り返し見せられながら、舞台と役者が違うばかりに、飽きもせずお金を払いつづけているのである!
映画と同様、経営者は他社と似たようなパターンを進みつつ、自社だけは異なる独自の道を進んでいると勘違いしている。
問題は、パターンが見えないために、パターンに翻弄されていることだ。その結果、どの会社も他社と同じような間違いを、他社と同じようにしているのだが、他社と同じように問題が表面化するまで、何もアクションを起せない。その結果、他社と同じように、家族や社員が犠牲になる。
もちろんパターン化することで、十把一絡げに扱ってしまい、独自性を見逃してしまうリスクがあることは承知である。しかしながら私は現在、パターンが見えないために、パターンに翻弄されるリクスのほうが何倍も大きいと思っている。
パターンを知れば、パターンから抜け出すことができる。
地雷が埋められている道を進んでいることを知っていれば、地雷にうまく対処することができるのである。
以上のように地雷という過激な表現をしているものの、本書は、あなたを脅かすことが本意ではない。また成功という英雄物語を歩むことを、あなたにやめて欲しいといっているわけでもない。実際のところ、私は地雷を踏んで痛い思いはしたが、今となっては、その痛みが大きな力を生むための貴重な贈り物であったことが分かる。踏みとどまっていたら、いまのような日々起こる奇跡に感謝できる、豊かな人生にとても出会えなかったと思う。
これからあなたに伝えたいことは、地雷を踏むことを回避する方法ではない。残念ながら困難や障害を避けることはできない。しかし上手に乗り越えることはできる。
乗り越えたときには、そこには想像を超えた景色が広がる。その新しい現実に出会うことが、成功を目指すものを駆り立てる。しかし成功物語には自己を解放する結末もあれば、囚人となってしまう結末もある。私は、あなたが成功に憑かれた囚人になるためではなく、持てる能力を解放するための羅針盤を本書で提供していきたい。そして困難に立ち向かう覚悟と克服する力を、あなたに授けたい。
根底に流れるテーマは、ビジネスと家庭とのバランスをとりながら、いかに会社をスムーズに成長させるか、ということである。このテーマを扱うにあたり、本書は物語の形式をとっている。物語という形式を借りることによって、この広範な題材を、より分かりやすく、一貫性をもって伝えられると思うからである。
物語ではあるが、作り話ではない。この物語は、特定の人物や会社がモデルになっているわけではなく、私に起こった出来事を含めた複数の実話を総合して作り上げたものだ。何人もの成功した経営者に出会ってみると、驚くほど似たようなパターンが生じているので、そのパターンから不純物を殺ぎ落としてきた結果、生まれた物語といっていいだろう。だからここに書かれている物語は、ビジネス経験を重ねた人ほど、現実と同調していることが分かってもらえると思う。
本文では、会社でこれから起こる出来事を予測し、洞察できる能力を学べるように、数頁めくるごとにクイズが提示される。推理小説のように、楽しめる経営書と考えてもらえればいい。
また登場人物同士の会話についても、あなたが自分の組織で抱える問題に応用しやすいように、臨床心理におけるカウンセリングの知識をもちいて設計されている。単なるビジネス書以上に、活用できる内容にしようと心掛けた。勉強家の方は、一度目は、筋を追うようにして読んで、二度目は、自分の会社へ応用法を考えながら読むといい。一冊で二冊分の学びがあるだろう。
主人公は、ベンチャー企業を創業した経営者に設定してある。しかし本書で展開される問題は、すべてのビジネスマンに潜む病理であると私は考えている。身近に悩んでいる同僚、友人がいる場合には、その方々の状況に当てはめながら、読んでもらいたい。根本的な問題を見出すことができ、友人を助けるきっかけになるかも知れない。
それでは前置きはこのくらいにして、そろそろ物語をはじめよう。
物語は、サラリーマンのある一日からはじまる。
(プロローグ終わり)
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